『SS』 Naco視点 その3
「黒猫、うるせぇぞ。メソメソと泣くんじゃねえ」
「……っ」
檻の横、銀髪のお兄さんが居座っている。
どうやら、私の見張り役――コールディンの護衛を担当しているようだ。銀髪のお兄さんは泣き続ける私に、うんざりとした様子だった。
「泣く気力があるならなぁ、今の状況を打破するにはどうすればいいか、どう逆境を乗り越えたらいいか――考えたらどうだ」
「……私、子供ですよ。檻に入れられて、どう乗り越えるっていうんですか? そちらこそ現実的なことを言ってください」
半ば、ヤケクソ気味に返す。
ムッとはしたものの、会話しているだけでも――気が紛れた。
そんな私の気持ちを察してか、銀髪のお兄さんも話すことをやめろとは言わなかった。
「忠告しておくがな、この世界を甘く見るんじゃねえぞ。子供だからって迷子になって泣き喚こうが、道端で倒れて呻こうが、誰も救いの手は――差し伸べちゃくれねえ」
その言い回しが、気になった。
比較する対象が存在しない限り、こんな言葉はでてこないはずだ。
「銀髪のお兄さんは、東京って知っていますか?」
「住んでた」
即答だった。
住んでた、ということは――地名だと理解している。
私が目を丸くして驚くと、銀髪のお兄さんはお腹を抱えて笑い出した。
「ひゃははっ。なんとなく、お前の持つ雰囲気から――俺と同じ境遇だろうなってのは感じていたぜ」
「やっぱり、そうだったんですね」
「助けてほしいって言わねえのか」
「……私は一度、選択を誤っています。また突き放されるのが怖いです。あなたを信じていいかどうか、今の私にはわかりません」
「はっ、大人びた思考のガキだ」
「それに、お兄さんは雇われているんですよね? 私を助けたりなんかしたら、大変な目に合うかもしれません」
「自分どころか俺の心配するたぁ、頭がお花畑にもほどがあるだろ」
不意に、銀髪のお兄さんが――カードを広げる。
「黒猫、占いは好きか?」
「好きです。信じ過ぎちゃう性格でして、普段は見ないように心懸けていました」
「じゃあ、お前の運命――これに託してみるか」
銀髪のお兄さんは言う。
色々な絵柄があり、手品のようにカードを空間に浮かべる。
私の知識にはない、見たこともない占い方法だった。
「俺の占いは――当たるぜ。なんせ、カード師にそういったスキルがあるからなぁ。ゲーム時はその日の天気、運勢、クソみたいな性能だったが一気に変わった。今となっては頼れる相棒みたいなものだ」
カード師? スキル?
私にはよくわからない言葉ばかり、銀髪のお兄さんは空間に浮かんだカードの中から一枚を手に取る。
「面白いカードがでたじゃねえか」
「面白いカード、ですか?」
「こいつは待ち人来たる、なんて意味のカードじゃねえ。今回はお前を対象にしてあるんだが――中々に、アクティブな未来が待ち受けてそうだぜ。まあ、俺のお眼鏡にかなうかどうか軽く確かめてやるよ」
銀髪のお兄さんが、私にハートの折り重なったカードを見せ付ける。
「もうすぐ、お前の運命の人が来るぜ」
そして、私はクーラと出会った。
占いが本当だったかどうかは――わからない。
ただ、偶然が折り重なった結果の出会いだったかもしれない。
「必ず君を連れて行く」
心臓を貫かれた一言だった。
二度と会えないと思っていた人が現れた衝撃、銀髪のお兄さんの言う通り、私は――運命を感じた。
この人に付いて行く、付いて行きたいと心から思った。
「クーラ、到着しました」
「ありがとう」
ファーポッシ村、お墓の前にフラリシアの花束を供える。
あの日から今日まで、今もずっとクーラは私の側にいてくれる。
優しい笑顔で仲間を第一に想ってくれる人、私の奇跡はこの世界で新たな生をもらったことじゃない。
「行こうか、ナコ」
「はい」
どこまでも、私は付いて行く。
この理不尽な世界の果てになにが起きようとも、世界の全てが敵に回ったとしても、私だけは――必ずクーラと共にいる。
もう、選択は――絶対に誤らない。
「クーラ、おっぱいを揉むのは自分以外にしてくださいね」
「自分のおっぱいを? いくら、美少女の身体になったからって揉むわけな」
言いながら、クーラがハッとした顔付きをする。
「私のなら、いつでもオーケーですよ」
「えぇ、いつでもオーケーって――というか、僕が揉んでたのどこで見たのっ?! お風呂、いやもっと前になるのかっ!?」
「ふふ。内緒です」
クーラに出会えたことが、私にとってかけがえのない奇跡なのだから。
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