第342庫 理想の未来に向けて

 一ヶ月後。

 絆の都もふもふは順調に稼働、見る見る内に――国民が増えていった。風の都ウィンディア・ウィンドのモーフル王、石の都ストーンヴァイスのイワンドゥ王、特にこの二人の働きかけが大きかったといえる。

 国の名に相応しく、人口の大半がミミモケ族となっていた。

 もふもふ国内では奴隷制度は全面禁止、国のために長期で働いた功績には――市民権の獲得を可能にしてある。自身の身内が奴隷として売買されているケースには、買い取りのための資金を先払いにて渡す制度も設けた。


 目指す先は、三国全てで――平等な体制を築きたい。

 その先駆者として僕はもふもふを種族差別のない国にする。奴隷制度など必要ないということを世界に示したいのだ。

 現在、屋敷内では――ポンズが書類をまとめていた。

 国が動き出して忙しい時分、事務仕事を一任させているのだが――文句も言わず黙々と働き続けている。彼女もミミモケ族であるが所以か、ミミモケ族の待遇が少しでもよくなるならと奮闘していた。

 今や、メイド姿は普段着となっている。


「ポンズ、奴隷として売買されていたミミモケ族、三国でどれくらいの人数を集めることができたかな?」

「ウィンウィン、ストーンヴァイスは協力的だった。この二国で管理されていた奴隷は全部引き受けてあるよ」


 ポンズは付け加えて、


「でも、アクアニアスだけは――連絡が来ない。この国は王が腐ってるから、奴隷の裏取引も普通に黙認している気がする」


 アクアニアスの王、ウォータス。

 僕が開国すると宣言した際も、最後まで反対していた人物である。ゲーム時からウォータスは自身の欲を第一として、人格者にはほど遠いキャラクターであった。

 三国会合の際にも、それはよく理解できた。


「そうだね、個人的にもありえる話だと思う。だけど、王相手に可能性だけで決め付けるのは――危険すぎる」

「だからこそ、うちをアクアニアスに潜入させてほしい。証拠を突き止めて、王の座から失脚させたい」


 ポンズが怒気を含みながら言う。

 最近、もふもふ領内に孤児院を設立したのだが――これは、ポンズたっての希望であった。ポンズはどこからともなくミミモケ族の子供を何十人と連れ帰り、この国に置いてほしいと懇願したのだ。

 大金が必要だった理由は――そこに深いつながりがあるのだろう。


「皆を受け入れてくれたクーラさんには感謝している」

「仲間の頼みを断るわけないよ」

「ありがとう」


 ポンズが微笑む。

 ペルファリア大山脈から帰還後、本当にポンズは――変わった。無表情だったころが懐かしく思えるよう、感情豊かに笑うようになった。


「ポンズ、子供たちはこの国には慣れてきたかな?」

「毎日楽しそうにしているよ」


 皆、ポンズをお姉ちゃんと呼んで慕っている。

 その反応を見るだけでも、ポンズの心根がどういったものかが伝わる。そういった点も踏まえて――僕は先ほどの提案に頷くことはできなかった。


「潜入の件だけど――却下かな」

「どうして? うちもなにか役に立ちたい」

「役なら今でも十分立っている。それに、今ポンズに万が一があったら――僕は子供たちに合わせる顔がないよ」

「うぅーっ」

「でも、ポンズの案はありだね」

「だったら、うちが」

「大丈夫、潜入に最適の人物がいるよ」


 そう、古来より――お手の物なジョブである。

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