第330庫 殲滅戦 その4

 ライカが丸い塊を大量に地面に置く。


「狩りすぎていっぱいだからねぇ」


 これ、全部魔紅玉――いや、魔緋玉か。

 一つ一つが僕の頭分くらいの大きさ、なんかこう一気に並ぶと――グロテスク、奇妙な光景感が半端ない。

 アイテム名は立派ではあるが、ぶっちゃけるとシークレットの身体の一部だからだ。

 まあ、目玉――目玉だもんな。


「ぁ、焼いて食べてみたけど美味しかったよ」


 衝撃的な一言が飛び出す。

 マグロの目玉みたいに、DHA豊富な感じなのだろうか? サバイバル、遭難に近い状況となった今、食料を現地調達することは必須ではあるが――これを普通に食せるライカの豪胆さには感服する。

 僕は恐る恐る尋ねてみる。


「どんな味だったの?」

「ねろっとしてぬちょん、白子に似てるかもっ!」

「えー、お酒に合いそう。食べてみたい」

「あとで焼いてあげるねぇ」

「……もう、晩御飯の話してるの?」


 他愛ない会話の合間、ポンズが帰って来る。

 確か、シークレットの本体を探しに行っていたとのことだったが――ここは詳しく、本人から聞くのが早いだろう。


「ポンズ、ライカから聞いたんだけど」

「……最新の情報を伝える」


 僕が皆まで言う前に――察しが早い。

 ポンズ曰く、地下深くにシークレットの本体となる胴部が存在――そこにある心臓を破壊しない限り、永遠に再生し続けるとの話だった。

 8本の首は――本体に栄養を送るためだけの器官だという。


「……本体までの道筋はわかった」

「その様子だと、一筋縄ではいかないんだね」

「……地下に行けば行くほど、モンスターの数が増殖していく。まるで、本体を守るためだけに設置されているかのようだった」

「モンスターの軍勢、地下深くに潜む本体、巣穴というだけあって――不利なんてレベルじゃないね。全ての障害を掻い潜って仮に本体を撃破したとしても、無事に地上に戻れる保証はないんじゃないかな」


 現状、勝ち筋が――見当たらない。

 うーむ、冬眠でもしてくれないかな。いやもう、この雪山で活動してることを考えたら難しい話か。

 今の話をまとめると、ナコとゴザルが駆け付けた時が危うい。このままだと、巣穴に突入した時点で共倒れになってしまう。

 今日で10日ほど――猶予は残されていない。


「……クーラさんの言う通り、本体を撃破した瞬間生き埋めになると思う。だけど、うちの持つスキルでその未来を打破できる可能性がある」


 ポンズの手が光り輝き、


「……あまり、誰であろうと手の内は晒したくなかったけれど、今は四の五の言ってられない状況だから」


 羽の付いた、一本の蒼い矢が出現する。

 狩人は魔力により、様々なバフやデバフの付与された矢を生成することができる。僕も種類は全て把握しているが、これは――知識にはなかった。

 なんて神々しいフォルムだろうか。


「ポンズ、この矢は」

「……超越者スキル"グング・アロウ"という。放てば必中、この矢は必ず標的に突き刺さる」


 ポンズは端的に――そう答えるのであった。

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