第331庫 殲滅戦 その5

「……この矢を、脱出に使う」


 脱出に、使う?

 意図が読み取れず、僕は怪訝な顔をしていただろう。ポンズは上を指差し、両手で大きく丸を形作ったりと、ジェスチャーでなんとか表現しようする。


 ……うん、全然わからない。


 ライカにいたっては、すでに興味を失ったのか目玉を焼き始めている。香ばしい匂いが周囲に漂い、ポンズの話が全く頭に入ってこない。

 ポンズは言葉で伝えることは諦めたようで、


「……説明するより、その瞬間が訪れるまで信じてもらうしかない。ただ、敵であったうちの言葉には重みがない」

「信じるよ」


 僕は即答する。


「超越者スキルについてまで話してくれたんだ。君が覚悟を持って口にしてくれたことはわかる」

「……ありがとう」


 そのやり取り後、ホムラの回復を待って出立した。

 ゆっくりと、休息を取っている暇はない。僕たちはポンズの後に続き、本体までの距離を縮めていく。

 道中、行く手を阻むモンスターは僕とライカ主体で対処する。ホムラとポンズの力は本体と戦う時まで温存しておきたい。


 どれだけの数のモンスターを狩ったか、皆の顔にも疲れが見え始める。

 巣穴という敵陣真っ只中、心から休まる瞬間はないに等しい。精神的な疲労も重なるとなれば、通常時とは比にならないほどの体力を削っていく。


「はぁ、ひぃ、ふぅ」


 特に、ホムラは魔力をフルに行使し――病み上がりに近い。

 ぜえぜえと、僕たちから数歩離れた距離を保ちつつ――今にも倒れてしまいそうな足取りにて、なんとか付いて来ているという様子だった。

 僕はホムラに駆け寄り、手を差し出すが、


「……なに?」

「足場が悪いからね。手を貸そうかと思って」

「いらないよ。私は一人で大丈夫」


 ホムラのテンションを上げるには――あの方法しかないか。


「ホムラ」

「……だから、なに? 今はもう喋るだけでも疲れるから。黙っていてくれると嬉しいんだけど」

「この作戦の要、君を一番頼りにしている」

「私を、一番頼りに?」

「本体は君にしか倒せない。僕は弱々だから、とてもじゃないが――シークレットの相手はできないだろう」

「うんうん」

「負担ばかりかけてごめんね。ホムラがいてくれてよかった」

「……一番頼りにしているって箇所、もう一回言ってくれる?」

「ほ、ホムラを一番頼りにしているよ」


 ホムラがガシッと僕の手を掴み、


「ねえねえ、ソラちゃん? もっと、いかにも、僕は雑魚です――みたいな顔付きで言ってみて?」

「頼りにしているよほほぉいっ」

「あぁー、いいね。ソラちゃんの弱々感、弱者待ったなしの雰囲気が出て――最高にいいねいいねだよ」

「……」


 ホムラの思考が黒に染まっていく。

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