第329庫 殲滅戦 その3

「クーにぃ、クーにぃ」


 僕を呼ぶ声が――聞こえる。

 少しずつ、少しずつ、意識がハッキリとしていき――ぼやけた視界が鮮明さを取り戻していく。

 見慣れた顔の少女と――目が合った。


「……ライカ?」

「心配させないでよぉ」


 ライカが僕に抱き着く。

 伝わる体温から、自身が生きていることを理解する。一か八かの賭け、作り出した数分間は――運命を変えたようだ。

 ライカは頭上を指差しながら、


「ホムちんと一緒にね、上から落ちて来たんだよ」

「そっか。上手くいったんだ」


 僕は触手を展開する。

 原型はとどめておらずボロボロ、半分くらい欠損していた。それも当然、僕は押し潰される直前――地面の亀裂に向けて糸状の触手を侵入させた。

 そして、残りの魔力をフルに込めて――裂を発動、爆散させたのだ。

 僕の立っていた場所に、落石がめり込んだ時――下が脆いのではないかと判断した。


 一か八かではあったが、九死に一生を得ることとなった。

 魔力を使いすぎた欠乏症により、一時的に気を失っていたのだろう。

 ライカと合流することもでき――状況は一気に一転した。先ほどまで死にかけていたのが嘘のようである。

 僕はライカの獣耳をモフモフしながら、


「はぁ、生きててよかった」

「……クーにぃ、どこら辺で生を実感してるの?」


 癒されるぅっ!

 僕の隣にはホムラが横になって寝息を立てていた。目を覚ます気配はなく、その表情は青白くなっている。

 僕の限界の比ではないくらいに、魔力を消費したに違いない。

 今はゆっくり回復してもらうのが吉だろう。負担ばかりで申しわけないが、ホムラの力は脱出に向けて必須となっている。


「ライカたちも無事で安心したよ。ポンズも近くにいるのかな?」

「ポンちんはねぇ、シークレットの本体を探索しに行ってるよぉ」

「シークレットの、本体?」


 なにやら、不穏なワードである。

 今気付いたのだが、僕たちが滞在している場所に――見覚えがあった。淡く発光する文字、これは僕がガルルガマの油で記したものだ。

 大きく、拠点地(3号)と書いてある。

 結構な深さ、拠点地(5号)から――2つ分くらいは落下したということか。ホムラの満身創痍の状態から察するに、最後の最後まで保護してくれたのだろう。

 ライカは発光する文字を突付きながら、


「この拠点地(3号)ってクーにぃたちが作ったんだよね。道中のメッセージにも気付いていたんだけど、脱出できるにできなかったんだぁ。今はここをキャンプ地にして動いてるんだよ」


 ライカは言う。


「もうね、いーってなるよ! シークレットが手強いっていうかなんていうか――とにかく、しつこいしつこいしつこい! 倒しても倒しても、ライカたちを逃さないようにするんだぁ」


 ライカの言葉に違和感を覚える。


「ライカたちも首を何本か倒したとして、僕たちも4本倒したから――残りは半分以下じゃないかな」

「ライカたちは12本倒したよ」

「じゅう、に?」


 いや待て、数が合わない。

 どういうことだ、という疑問――同時に単純明快な答えが頭に浮かんだ。

 信じたくもないが、それ以外にありえない。


「ライカ、まさか」

「あの8本首、無限に再生するんだぁ」


 ライカは簡潔に――そう口にした。

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