第328庫 殲滅戦 その2

 地上も目前、光が視界に入る。

 脱出まであと少しというところで――巣穴全体が揺れ動いた。足元がおぼつかなくなるほどの強力な振動、周囲の岩盤が崩れ落ち降り注ぐ。

 まさか、残った4本首で体当たりしているのか? ホムラには敵わぬと判断し、地形を利用した強硬手段にでた可能性がある。

 出口はあっという間に――封鎖された。


「ソラちゃんっ!」


 ホムラが僕を抱き寄せる。

 その直後、巨大な落石が僕のいた場所にめり込んだ。ホムラの機転により命は助かったものの――最悪な事態は加速し続ける。


「土龍、土籠つちかごっ!」


 ホムラが頭上にバリアを張った。

 人間など簡単に押し潰す質量の――落石である。バリアに亀裂が入るが、ホムラが魔力を注ぎ修復を続けていく。

 持たない――持つわけがない。


「ぐ、ぅぅう、あぁああっ!」


 ホムラは諦めない。

 衝撃が吸収しきれていないのか、掲げた右手からは――大量の血が流れている。このままでは全滅必至、僕はホムラの身体に白い触手を繋げる。

 全力で――魔力を注ぎ込んだ。


「……ソラちゃんの、魔力?」

「僕も足掻いてみせるよ」

「もう、主体は私じゃんか。ソラちゃんは弱々なんだから」

「僕だけだったら秒でお陀仏だよ」


 焼け石に水なのは、どちらも理解していた。

 こうしたところで、数分延長される程度だろう。だが、その僅かな時間は僕たちにとって意味のある時間になる。

 ホムラはくすくすと笑いながら、


「ソラちゃんは、私と死ぬのは本望かな?」

「急に重たいこと言わないで。まあ、昔からの付き合いの君と死ぬのも――それはそれでありかもしれないね」


 バリアの亀裂が増えていく。


「ねえ、この世界で死んだら――次はどこに行くと思う?」

「考えたことなかったな。確かに、僕たちはどこに行くんだろう」


 一度失った命、二度目はどうなるのか。

 理不尽に巻き込まれ、いつ命を落とすかわからない世界――今、その瞬間が僕たちに訪れようとしている。


「でも、まだ死んでいない」

「私も諦めていないよ」


 バリアの割れる音、視界が――闇に染まった。

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