第326庫 脱出編 その5

 脱出を目指してから――1週間が経った。

 ホムラに至れり尽くせりされながら、四六時中引っ付いて過ごす日々にも慣れてきた頃合いだった。


「火龍の残滓、反応が近付いてるね」


 ホムラが言う。

 反応が近付いているということは、地上が目前に迫っていることと同義だ。だが、忘れてはいけない事実――ここはシークレットの巣穴、エサの貯蔵庫である。

 生かされたまま、僕たちは保存されているのだ。


「やっぱり、来るならこのタイミングだったか」


 質の良いエサを、巣の主が逃がすはずがない。

 出入り口間際、穴という穴から――シークレットの首が飛び出していた。目に見える範囲では4本、獰猛な瞳で僕たちを睨み付けている。

 ガラスネークと同等の性質であれば怖いものはない。

 ガラスネークは雪山を縦横無尽に移動し、捕捉が困難という点以外は特に手を焼く部分はないからだ。

 こいつは、完全な上位種と断定していい。

 どんなスキルを持っているかも不明、僕は警戒度をマックスに上げていく。


「やっと、復讐する機会がきたかな」

「ホムラ、油断しないで。今度は確実に仕留めていこう」

「わかってるよ。同じ過ちは――繰り返さない。ソラちゃん見ていて、シークレットだがなんだか知らないけど、私をエサと同列にしたことを後悔させるから」


 ホムラが魔法陣をフルで展開させる。

 強大な魔力が周囲に広がり、シークレットの目が一瞬――ギョロギョロと、蠢いたのがわかった。

 それは強者を相手にした動揺か、質の良いエサに心が動いているのか。


「大蛇ちゃん、食物連鎖の頂点が誰かを教えてあげる」


 僕は前者であると――判断した。


「火龍、水龍、土龍、風龍――"精霊王"の名のもとに私に力をっ! 精霊憑依、四属性エレメントマスターっ!!」


 超越者スキル"精霊王"が発動する。

 精霊術師はどれだけ極めても同時召喚数は2体までとなっているのだが、このスキルは限界を超えることが可能となり――さらに驚愕の力を兼ね備えていた。

 ホムラの全身から白い光が噴き出す。

 精霊の力を借りたブースト、恐ろしいまでの魔力量――底が見えない。


 その姿はまるでドラゴン、柔らかな光を帯びた爪に翼が生えていた。

 精霊術師は後方からの支援がメインとなっているが、ホムラの精霊憑依による戦い方は完全な近接型である。

 超越者スキルによる新しい戦闘スタイルとなっていた。


「今度は――手加減しないからね」


 ホムラが両手を振りかざす。

 爪撃、光が空間を一直線に薙ぎ走り――シークレットの首が2本、ストンと地面に落下した。

 呆気ない幕切れ、ホムラの前に――再び姿を現したのが運の尽きだった。


「ソラちゃん。魔紅玉回収しといて」


 オンリー・テイル最強の精霊術師。

 どれだけの脅威であろうとも、本気のホムラの前にはなす術もないのであった。

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