第325庫 脱出編 その4

 脱出を目指してから――3日が経った。

 シークレットの姿は確認できず、ライカたちと合流することもなく、僕たちは拠点地(5号)となる場所で休息を取っていた。

 モンスターハウスと予想した通り、あれからファリティ以外にも様々なモンスターと戦闘する運びとなった。

 このペルファリア大山脈は始まりの三国、アクアニアスを北上したフィールドだけあって適正レベルは低いものの――連戦となると話は別だ。


 ゲーム時、気軽に動かしていたキャラクターとは違い――今の僕たちはご飯も食べるし睡眠を取る必要がある。

 現実的に、体力面という問題が存在するのだ。

 ホムラをおだてにおだて、襲い掛かってくるモンスターは全て任せていたため――僕は心身共に良好である。

 だが、その結果――別問題が浮上していた。


「はい。ソラちゃん、あーんして」

「ホムラ、自分で食べられるよ」

「ソラちゃんは弱々なんだから、休めるうちに休んでおかないと。なにもせずに私に任せておいて」

「いや、さすがにそこまでは」

「ねえ、私のこと頼りにしてるって言ったよね?」


 ホムラの瞳から光が消え失せる。

 圧、圧がすごい――頼り切った結果、どうしてこうなった? 戦闘以外の面倒も際限なしにみてくるのだ。


「ねえねえ、私のこと頼りにしてるって言ったよね?」

「あーん」

「うんうん。二度も言わせないでよね――美味しい?」

「美味しいよ」


 満足したのか、ホムラが微笑む。

 今日はファリティを倒した際、手に入れておいた腕の肉焼きである。見た目はグロテスクなものの――牛肉みたいで美味しい。

 こんな時、オンリー・テイルの公式ファンブックを読破していてよかったと思う。

 この本にはそういった裏設定、ペルファリア大山脈には昔人々が住んでいたなど、ありとあらゆる情報が載っていたからだ。

 ファリティは保存食にも向いていたという。

 食事も終えて、各々自由時間と言いたいところだが――ホムラが僕の側から離れようとしない。

 ホムラはニコニコと笑顔のまま、


「ソラちゃん、他にして欲しいことある?」

「お金欲しい」

「いいよ、いくら欲しいの?」

「お金はいいや。おっぱい揉ませて」

「えー、仕方ないなぁ」

「ホムラ、今まで悪い男に騙されたりしてないよね?」


 この尽くしっぷりは不安になる。


「ソラちゃんが初めてだよ」

「そっか、安心したよ」


 いや待て、安心と言っていいのか?

 今の言い方だと、ホムラ本人も明確に騙されているという自覚があるということだ。それなのに、嬉しそうな顔をしているのは何故なのか?

 湧き起こる疑問、ホムラは僕の頬を指で突付きながら、


「ソラちゃん、弱々な男になにかしてあげるのって――気持ちいいね。私がいなくなったらこの人どうなっちゃうのかなってゾクゾクしちゃう。大丈夫、大丈夫だよ、置き去りになんてしないからね」

「ひぃっ」


 なにこれぇ。

 悪魔のような表情で――ホムラが僕を見ていた。

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