第324庫 脱出編 その3

 ファリティ、ざっと見積もって――20体ほどか。

 生身のモンスターはありがたい。

 糸状の触手は――外殻を持つ防御力が堅固な種族には致命的に弱いからである。

 触手での肉弾戦となれば、一体倒すのにどれだけ労力が必要なのかといった具合だ。

 あくまで、最強は――対人戦に限られる。


「ホムラ、僕が左半分対処するから」

「風龍、風波かざなみっ!」


 言うが早いか、ホムラが攻撃を仕掛けた。

 一瞬の出来事、風龍が口を開き――なにかを放ったのだと、そう理解した瞬間には全てが終わっていた。


「ん? 左半分がなんか言った?」

「いや、なんでもないよ」


 その場に崩れ落ち、ファリティは息絶えていた。

 オンリー・テイル最強の精霊術師、強いなんてレベルを超えている。これでまだ全力ではないという――僕の出る幕はあるのだろうか。

 しかし、不思議な光景だった。


「全く外傷とかないけど、どうやって倒したの?」

「内部で心臓を切断したんだよ。派手に殺すと色々飛び散って、臭いも光景も悲惨になっちゃうからね」

「即死技じゃないか。これ、対人戦でも使えるの?」

「手練れ相手だと厳しいかな、魔力感知で狙いがバレバレになっちゃう。知能の低いモンスター、雑魚専用って感じだよ」


 便利すぎぃっ!

 僕の触手は大量のモンスターを同時に倒すことは――難しい。触手の本数に応じて今は2体までが限界だろう。

 白雪から獲得した"絶対炎凍球"はあるものの、これは魔力の消費量が激しく多用できるものではない。

 ホムラの今の技は――間違いなく、スキルの創意工夫だろう。

 まあ、適材適所――僕が無理に範囲攻撃を覚える必要はない。ここは素直にホムラに頼るとしよう。

 僕は腰を曲げて盛大に拍手しながら、


「ホムラ様、素敵っ! 格好いいっ!」

「ええー、そうかなぁ?」

「美人でナイスバディ、その上強いなんて無敵じゃないかっ!」

「ふっふん。ソラちゃん弱々だから、モンスターは私に任せておきなよ。後ろで応援してくれてたらいいからね」

「いよっ、ホムラ様最高っ!」

「えっへんっ!」


 ホムラが威張った様子で胸を張る。

 弱々で悪かったなぁ! と、反論したい気持ちは抑え――媚びへつらう。

 なんだか、うまい具合に扱う方法がわかってきたなぁ。

 僕は遠慮せずに、ホムラに頼り切ることを決意するのであった。

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