第291庫 幸せな時間

 僕は仕切り直すよう咳払いを一つ、


「ライカ、前に――僕が下着を見た時、恥ずかしがっていたよね」

「うん」

「裸は気にしないの?」

「裸は大丈夫」


 ライカ基準難しいぃっ!

 いや、もともと――ライカは個性が極めて強い部類に入る。スタンダードな思考が適用されることは少ない。

 ライカは無邪気な笑顔で僕に振り向き、


「ね、ねっ! クーにぃ、早く早くぅっ!」

「ライカ、刺激を与えたからといって――すぐに効果はでないと思うよ」

「そうなんだぁ。大好きな人でも駄目なのかなぁ」

「……ライカ、好きってどういう好きですか?」


 ナコさん、指摘する箇所はそこじゃないよね。


「えー、クーにぃのことは大好きだよ」

「私が聞いているのは、その好きの意味です」

「意味とかあるの? ライカ、よくわかんない」


 ナコの想像している――好きではないだろう。

 名前の呼び方からしても、兄を慕うかのような気持ちを感じる。例え、兄感覚だからといって――胸を揉んではおかしいけどね。

 僕はライカの両肩に優しく手を置きながら、


「ライカ、そういう気持ちは――いつか、大切な人ができた時に置いておこう。この人になら触られてもいやじゃないって、そう思える瞬間がきっとやって来る」

「そうなの?」

「そうだよ」


 ライカほど器量がよかったら――引く手数多だろう。

 漠然とした説明になってしまったが、今はこれくらいで十分だろう。一から百まで説明するには――少し場所もタイミングも違う気がする。

 話を広げることにより、もっと詳しく教えてと言ってきそうで怖い部分もあった。

 今度、レイナさんに授業でもしてもらおうかなぁ。

 僕はライカの背中を洗い流し、のぼせる前に出ようかと促す。

 なんだか騒がしい入浴になってしまったけれど、これはこれで――幸せな時間に違いない。

 お風呂上がりの一杯、牛乳を一気飲みしながら、


「っ、はぁ、私が一番です」

「うぇえ、ナコちん強すぎるぅ」

「……ライカ、鼻から牛乳でてるよ」


 僕は笑いながら言う。

 のんびりとした平和なひと時を、今はゆっくりと噛み締めるのであった。

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