第290庫 ダブルパンチ

「クーにぃのおっぱい、結構大きいねぇっ!」


 大きい、か。

 不躾ながら、ゴザルよりバストサイズが上な自信は――大いにあった。

 本人の前で直接言えるわけもなく今日まで過ごしてきたけれど、ゴザルの視線が何度か僕の胸に向いていたのは気付いていた。

 その視線の意味はなんとなくわかる。

 こ、こいつ、中身男なのに私より大きいのかよと――苛立ちのような焦りのような、複雑な感情が入り混じった視線である。

 サイズ的にはゴザル以上、ホムラ未満といったところだろう。

 だが、僕は男なのだ――大きいからと自慢したい気持ちは一つもない。冗談でゴザルに「僕の方がおっきいねっ!」なんて言ってみたい欲求はあるが、それはもう命を懸けるくらいの覚悟が必要であろう。

 ライカの純粋な一言、僕は冷静に返す。


「転生前=転生後の年齢になるから、年相応の成長をしているんじゃないかな」

「そうなんだぁ。ライカやナコちん、ゴザルんより余裕で大きいよねぇ」

「……ライカ、後半部は本人の前では禁句だからね」

「んんー、ライカも数年したら大きくなるかなぁ」

「大人になった時の楽しみにしておこう」


 僕は曖昧に返す。

 以前、ナコにその手の話題を出してデリカシーがないと――激怒されたからである。僕も色々な意味で成長しているのだ。

 同じ轍を踏むわけにはいかない。

 おっぱいの話も一段落したところで、背中の流し合いっこが始まる。こんなシチュエーションになった理由は不明だが、もうなるようになるしかないと僕も諦めて――颯爽と先頭にスタンバイする。

 一人で入浴しているはずだったんだけどなぁ。


「よくさぁ、揉んだら大きくなるって言うよねぇ」

「医学的根拠はないけれど、世間的にそういった風潮はあるね」

「クーにぃ、ライカの胸揉んでみて」

「もっ?」

「ライカの胸」

「な、なんだとぉっ!」


 おっぱいの話が――再臨する。

 なんて不意打ち、完全に終了したと油断していた。意識外からの攻撃、しかもここに来て流し合いっこの順番が――入れ替わる。

 センターのライカを、僕が流す形となった。

 背中から覆うよう優しく触れたら、ライカの希望に容易く応えられる。

 しかしながら、この行動はどう考えても倫理的にアウトである。


 ……保健、体育? 


 地下要塞突入時、下着の一件のように方向性を示すべきか。

 ライカの性格的に――好奇心の勝った発言だということは理解できるが、胸を揉んでと言われて揉むわけにもいかない。僕は大人として毅然とした振る舞い、紳士な態度で対応するのが正解だろう。

 どう諭すべきか、泡立つタオルを手に逡巡しているところ、


「……クーラ?」

「クーにぃ、まだぁ?」


 一刻の猶予もない。

 圧と催促――ダブルパンチが襲い来る。

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