第288庫 逃亡不可能

「師匠、修行の前に――確認してほしいことがあるんだ」

「ナコの現状についてか」

「えぇ、なんでわかったの」

「察しは付く、ナコの魔力の質が明らかに変化しているからな。貴様が魔力の核を創り変えて、新たな道を築いた結果だろうが――これは面白い。闇と光の2属性を扱うことのできる生物など初めて見たぞ」


 白雪は言う。


「安心しろ。貴様の心配する問題は――微塵もない」


 その言葉に、僕は胸をなでおろす。

 もし、また以前のように――反発し合う属性同士が、ナコを苦しめてしまったらどうしようと気が気ではなかった。

 白雪の太鼓判、これ以上に信頼できるものはないだろう。


「ところで、ナコ――貴様、闇と光を切り替えて使っているのではないか?」

「す、すごいです。ドラゴンさんは、そこまでわかっちゃうんですね」

「にはは。腐らせた使い方をするな――切り替え時に隙もできる。同時に扱えるようにしておけ」

「同時に、ですか?」

「今の貴様なら可能だろう。魔力の質を見る限り、渦を巻くよう闇と光が絶妙に噛み合っている」


 白雪が局長のぶっ壊した窓から外に飛び出る。

 僕たちも白雪の後に続くが、庭の景色を見ると――魔力操作の練習と称し、散々走り込みをやらされた記憶が蘇る。

 僕も同じく逃げたい――局長を追いかけたい。

 白雪が大きく両腕を広げ、右手と左手に火球と氷球を出現させる。さすが古代龍、最強種の一角――僕に半身を分け与えた今でも、十分すぎる強さを持っている。

 白雪はそれらを上空に、混ざり合った球が蒸気となり降り注ぐ。


「ナコ。イメージ的にはこんな感じだ――やってみろ」

「はいっ!」


 ナコが威勢よく返事する。

 真面目で勤勉な性格のナコだ――なんやかんやで面倒見のいい白雪とは相性がいいかもしれない。

 ナコが指示されるまま、両手に闇と光の球を出現させる。


「……天才だな。今の説明だけで実行できるのか」

「師匠、ナコってやっぱりすごい?」

「ライカと同等かそれ以上、まず間違いなく貴様よりは才能がある」

「ひ、ひどい」

「まあ、そんな強者を従えている貴様も十分異常だということを自覚しろ」

「従えているというよりは、慕ってくれているという方が正しいのかな。身に余る光栄だよ」

「ドラゴン的にはどちらでもいい。だが、そういう細かな言い回しから――皆の集まる理由がわかる」

「あはは。ほめられてると思っていいのかな」

「素直に受け取るといい。ところで、ライカはどこに行った? 急に姿が見えなくなったぞ」

「あれ、本当だね」

「貴様もどこに行こうとしている?」

「いやぁ、ライカを探しに行こうかなって」

「そうかそうか」


 白雪は優しく微笑み、一拍置きながら、


「その手には乗らん。ライカは保留――始めるぞ」


 いつもの修行モードに入るのであった。

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