第287庫 百獣の王?

 翌日、紅桜組の屋敷にて定例会議が行われる。

 辻斬の一件は甚大な被害を及ぼし、風花さん含む隊員たちの大半が――病院に搬送される事態となっていた。

 現在、動くことのできる隊員は極少数な上、皆が巡回に出払っており――賑やかだった紅桜組の屋敷はガランとした空気に包まれていた。

 局長が白雪に――ここ数日の事情を話す。


「……かくかくしかじか。大変な状況になっておる」

「妾のいないところで、そんな事件が起きていたのか」

「白雪殿が訪れるという日なのに、大した歓迎もできずにすまなんだ。料理係の風花も治療中、今は人手不足でな――国全体の警備すらままならない状況じゃ」

「気にするな」


 白雪は言いながら、僕たちに視線を移し、


「うってつけの代わりがいる。妾の遊び相手には――十分だろう」

「……師匠、またなにか企んでない?」

「せっかくの再会だからな。腕が鈍っていないかどうかの確認も兼ねて――貴様たちにまた修行をつけてやろう」


 修行という言葉に、全身が震え上がる。

 僕は今の話を聞かなかったことにして場を去ろうとする。その時、ガシッと僕の肩を力強く掴む人物がいた。

 局長が満面の笑みを浮かべながら、


「クーラ殿、白雪殿の相手は頼んだぞ」

「……局長さん?」

「ワシは風花たちの様子を見に行ってくる。すまぬが――その後、巡回もするので帰りは遅くなる」

「ライアス、今日は助かったと思っているだろう」

「ぬぅっ! お、思っておらぬぞっ?!」


 白雪の言葉に、局長の目が泳ぎ始める。


「ライオンのおじさん、なんだか様子がおかしいなぁ」

「僕もそう思う」


 ライカに賛同する。

 というか、局長って――ライアスって名前だったんだ。今さらながら、初めて知る事実であった。

 白雪は心当たりがあるのか、ニヤニヤと笑いながら、


「にはは。普段、定例会議のついでに――紅桜組にいる全員を扱きに扱きまくっているからな」

「あ、クーにぃ、ライオンのおじさん――逃げたよ」

「くそぉおおっ! さり気なく出入り口をガードしてたのにっ!!」


 窓を突き破って飛び出していった。

 迷いなく一直線に突っ走る豪快な姿は、まさに百獣の王――勇ましいの一言に尽きるのであった。

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