第286庫 蠢く脅威

「火刀――火輪かりん


 アラシの全身が燃え上がる。

 強硬手段、武者は光と闇を除いた6属性を刀に付与することができる。

 アラシは自身の体内に火を放ち、ライカの拘束を解除したのだ。

 アラシは口から多量の煙を吐き出しながら、


「ぷはぁ、キッツぅ――まあ、動けんよりマシやっろっとぉっ!」


 その後の動きに――無駄はなかった。

 恥も外聞もない全力逃走、アラシが屋根に駆け上る。満月を背に、僕たちを見下ろしながら――言い放つ。


「今回は無念にも敗走や。クーラ、ほんまはあんたと殺り合いたかったが――次回の楽しみにしておくで。それと、ワイはもうこの国からは撤退する。さすがにこのダメージは回復に専念せなあかんからなぁ。ワイのこと探さんといてや? フリやないで?」


 嘘か実か、掴みどころのない男である。


「アラシ、君のような人間はどれくらい残っているんだ?」

「あっはっは、率直に聞いてくるやないか。その素直さは面白い、ワイも答えてやりたい気持ちになったでぇ」


 アラシは刀を鞘に納めながら、


「リーダーが亡くなって"Freedom"は解散、新たなギルドを立ち上げたやつもいるし、ワイのようにソロで好き勝手やっとるやつもおるよ」

「……新たなギルド?」

「いずれ、耳にするんちゃうか。そいつもリーダーに負けず劣らず、ワイなんて普通に思えるくらいに」


 アラシは端的に言う。


「狂いに狂っとるで」


 そう言い残し、闇夜に溶け込んだ。

 不穏なワード、今の小さな情報からもリボルの思想は完全に消え去っていないということがわかった。ライカがアラシを追跡しようとするが――僕は制止する。


「クーにぃ、追わなくていいの?」

「やめておこう、深追いしても――悪い予感しかしない。それに、彼が全力で逃げに回ったら追い付けるのはライカだけだ。その先に罠を仕掛けている可能性もある。今日は双方手負いのまま痛み分けが一番安全策だろう」

「……仕留め切れなくてごめんねぇ」

「謝る必要なんてどこにもないよ。ライカのおかげで――僕とナコ、風花さんも助かったんだ」

「じゃあ、ほめてぇ」

「はいはい」


 僕はライカの頭を優しくなでる。

 尻尾を揺らめかせ、目を細めながら――僕に抱きついてくる。ナコが二人に増えたような感覚がすごい。

 そして、その背後から――圧を感じる。


「クーラ、私もほめてください」

「ナコちん、今はライカの時間だからぁ」

「……うっ。ライカ、その言葉はズルいです」

「ふっふーん」


 ナコの一言に、ライカがドヤ顔で返すのであった。

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