第254庫 資質

「どうやら、反対派は――私だけということですか」


 ウォータスが渋々と言う。


「火の都サラマンの跡地は広大です。どれだけ国としての利を逃すか、お二人共その点は理解しているので?」

「無論、理解している。だが、クーラが国を作り――我々にもたらす利の方が遥かに大きいと俺は考えている」


 ウォータスが反対派なのはわかる。

 アクアニアスはミミモケ族の奴隷売買が盛大に行われている国だ。

 僕が新しい国を作ることが、障害になると予感しているのだろう。


「賛成派が二人とならば――仕方ありませんな。ですが、私からも一つ試させていただきたいことがあります」

「……試す、ですか?」

「ええ。イワンドゥ殿と同様、クーラ殿の資質を――見定めさせてください」


 その言葉と同時、ウォータスの傍らにいる騎士が――動いた。

 驚くべき速さ――瞬時にゴザルの間合いに飛び込み、一刀両断にしようとする。

 ゴザルはギリギリで防御したものの、威力が相殺できず後方にふっ飛ばされた。


「ウォータス様、一体なにをっ?!」


 僕が叫び問いただすと、


「け、剣聖殿っ! 狙うのは――そちらではないですよっ?!」

「どう動くかは、自分で決めるから」

「お、王の命令が聞けないのですかっ?!」

「うるさいっ! 黙って!!」

「ひぃっ!」


 ウォータスも慌てていた。

 剣聖? この騎士が剣聖っ?! どういうことだ、と思ったのも束の間――剣聖と呼ばれる騎士が僕を抱き寄せる。

 兜で顔は見えないが――声質から女性だとわかった。


「……会えた。やっぱり、そうだったんだ」

「えぇっ、なにがっ!?」

「嬉しい、嬉しいよ、ずっと探してた。有名になったら会えるかなって、一緒にいたくもない王に付いた甲斐があった」

「僕を、探してた?」

「そっちもそうだよね? わかってる――わかってるよ」

「……君は」

「ソラ、退いてっ!」


 ゴザルが舞い戻り、剣聖に斬り掛かる。

 驚くことに、ゴザルの一撃を――剣聖は片手で受け止めたのだ。

 響き渡る剣戟音、会議場は一瞬にして戦場と化した。

 剣聖は剣をブンブンと振り回しながら、


「痛っぁああっ! なにこの馬鹿力――手が痺れちゃった。邪魔するつもりなら、本気で殺しちゃうよ」

「ソラを離しなさい」

「せっかく会えたのに、離すわけないでしょ」

「もう一度だけ言う。ソラを離しなさい」

「二度と離さない――離すもんか」

「だったら、容赦しないわよ」

「私、最初から言ってなかったっけ? 邪魔するつもりなら、本気で殺しちゃうよって」


 凄まじい殺気が――満ちていく。

 何故か、渦中にいる僕は――剣聖に抱かれながら、涙目で事態を見守るしかないのであった。

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