第240庫 王都上空最終決戦 その2

 触手を2本展開、二刀流の構えを取る。

 僕の姿を見て、フレイムドルフが――さらに笑みを強く浮かべた。

 まるで、子供が新しい玩具を見るような眼差しである。


「我の構えと似ているが、曲芸でも始めるつもりか?」

「似ているもなにも――同じだろう。僕のプレイヤーとしての戦闘スタイルは君を模倣したやり方だった」

「くっくっく。真似事が――オリジナルに勝てると思うのかっ?!」


 フレイムドルフが加速――迫り寄る。

 ブースト、ファイアクス、ミラージュ、強化の重ねがけ――以前より、動きが異常なまでに鋭くなっていた。

 白雪の修行がなければ、今の一瞬の攻防で僕は真っ二つにされていただろう。


 フレイムドルフには"王炎"以外にも厄介なスキルがある。

 スキルというよりは――ナコの星の寵愛に近い特性と言うべきか。

 やつは激戦を繰り返し、死の淵に立てば立つほど強くなる――"不死鳥"というものを持っている。

 この強さ、魔力量――前回の比ではない。


「……何回、死の淵に立った?」

「武者ゴザルという強者によって我は死んだ。その後も――強きプレイヤーを求め、何度も戦いを繰り広げたのだ。リボルがいる限り、我に命の心配などいらん。強化するなど容易いことだったぞ」

「PL、パワーレベリングみたいなものか」

「くっくっく。一つ難点を言うならば――お前たちほどの強者を探すこと、それが最も時間を労したな」


 強さへの渇望、執着――狂おしいほどに一途、愛に等しい。


「遥か高みに届いたと思ったが、お前もまた近付いている。正直、今の一瞬で殺したという手応えはあった。実際はどうだ? 触術師クーラ、お前はまだ我の前に立ち、折れることなく前を向いている」


 フレイムドルフは言う。


「やはり、お前は――我にとって究極の障害、世界を支配するための最後の試練と言っても過言ではない。確実に息の根を止め、一切の可能性すらも排除する」


 フレイムドルフが剣を交差させ――吼えた。


「王炎っ!」


 自身の限界を超えるスキル。

 開幕からの全開状態、火山のように赤いオーラが噴き上がった。

 僕を消し去ることだけに――終始している。

 今、僕とフレイムドルフは同じ考えを持っているのだろう。目の前にいる人物を倒せば全て終わるということ。

 それを――双方、理解し合っていた。


「どちらの運命に天秤は傾くか――いや、すでに傾き始めていたようだな」


 フレイムドルフが艦内を見渡し――ほくそ笑む。

 キャロルさん、ライカが膝を付き――追い詰められていた。

 ナコは奮闘しているが、超越者二人相手に長くは持たないだろう。

 戦力差があるのは――十分に理解していた。

 時間を稼いでくれている間にフレイムドルフを倒さねばならないのだが――このままでは、とてもじゃないが間に合わない。

 戦況は悪化していく一方だった。

 だが、フレイムドルフを見ると――真剣な表情、いつもの余裕ある態度がなくなっていた。

 フレイムドルフは頭上を見上げながら、


「我の勝ちは揺るがないという状況――だが、何故か不安が募る。お前を早々に殺したいという理由はそこだ。触術師クーラ、お前からは並々ならぬ力を感じる。決まった運命を覆す、奇跡を無理やり絡め取る力だ」


 その時、戦艦が大きく揺れ動く。


「フレイムドルフ様っ! 大きな影が――戦艦上部を貫通、なにものかが艦内に侵入して来ますっ!」


 戦艦の操舵者が――叫んだ。

 大きな影というからには――モンスターか? その答えはすぐにわかる。火花飛び散る戦場の中、黒いドラゴンが乱入して来たのだ。


「約束は果たしたぞ。ワシの手助けは――ここまでだ」


 言葉を話している。

 間違いなく最強種――古代龍だろう。最強種を従えている人物が、背中から勢いよく飛び降りてくる。


「私も参戦願えるかしら」


 その人物は、刀の切っ先を――真っ直ぐ敵陣に突き付けた。

 それは、味方である確固たる証だった。

 今この瞬間、僕たちは――全員同じ気持ちを抱いただろう。

 これほどまでに頼りになる背中は――どこにもない。


「ソラ、お待たせ」

「ゴザル、君を待っていた」


 今、全ての仲間が――ここに集結する。

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