第238庫 僕だけの号令
間もなく、王都に到着する。
遠目ながらも――黒い空中戦艦の姿は容易に確認できた。
ヒオウの戦艦よりも大きく、強大さが伝わってくる。僕たちの戦力でこの規模を相手にするのは不可能、ゾウと蟻くらいの差があるだろう。
だが、狙うは――フレイムドルフ一人のみ。
全ての元凶、主導者を断ちさえすればこの戦は終わるのだ。今は背後にいるリボルのことは後回しに――標的を絞り込む。
僕は確認のため、再度作戦を皆に説明する。
「突入の際は、一気に接近して――捕捉される前に詰め寄ろう」
「クーラさん、フレイムドルフとの一騎打ちは大丈夫なのですか? 自分が零の呼吸で不意打ちも可能なのですよ」
「いや、やつは命に直結する攻撃に敏感なんだ。キャロルさんの存在が消えたとしても脅威は察知するかもしれない」
糸状の触手すら本能で見破ったのだ。
盗賊というジョブは――どちらかというとサポート側、後衛の部類に入る。
カウンターを受けてしまったら防ぐことは難しい。
「フレイムドルフは、真正面から僕が――倒すよ」
「マスターはライカに任せてぇ! ライカはもう一度だけ話をしたい」
「それでは、自分とナコさんで残りを抑えようと思います」
黒い戦艦との一定の距離間、ナコがエアーを停止させる。
「クーラ、いつでも接近できます」
「接近した後、戦艦の上に降り立とうと思う。そのまま内部に侵入、僕がフレイムドルフを倒すまで――耐えてほしい」
「クーにぃ、リーダーは号令をかけないとだよぉ」
「僕、リーダーだったの?」
僕の疑問に、皆が真顔で頷く。
「当然なのです。クーラさんを中心に今のメンバーはここにいるのですよ」
号令、か。
ゲーム時、ボス戦に挑む時は――いつもニャニャンが気合い十分に叫んでいた。絶対勝つぞとか負けてたまるかとか、勝敗に絡んだ言葉ばかりだった記憶がある。うーん、同じような感じでいいのだろうか。
悩む僕に気付いたのか、ナコがくすりと笑いながら、
「クーラはクーラらしい号令でいいと思いますよ」
「……ナコ」
命懸けの戦いになる。
個人間でも戦力差は否めないだろう。それでも、どれだけ勝率が低かろうとも――今この瞬間に全てを懸けるしかないのだ。
他のプレイヤーがこの責務を果たしてくれていたら、そう考えたことだってもちろんある。
偶然なのか、運命なのかはわからない。
だけど、その役割は――僕たちだったというだけだ。
今この場に立っている、それこそがなによりの事実だった。
守りたいものがある、大事なものがある。
この世界で生きていく限り、襲いくる脅威に対抗できる力がある限り、立ち向かうべきなのだろう。
ただ、渦中に飛び込みながらも――ワガママな話かもしれないが、誰一人として欠けてはほしくないのだ。
僕がリーダーとして言える言葉は一つしかなかった。
「皆、必ず生きて帰ろう」
――「「「了解っ!」」」
今、僕たちは――決戦の場に降り立つ。
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