第216庫 いざ、ウィンウィンに!

 陽の国サンサンを旅立つ日。

 僕とライカは鈴華姫の屋敷に来ていた。屋敷の主、鈴華姫はもちろん――局長、風花さん、紅桜組の隊員、皆が僕たちを見送るべく集まってくれた。

 ドラゴンとなった白雪、あとは――その背に乗り込むだけだ。


「ライカ、本当にいいの?」

「ライカはクーにぃと一緒に行くよ」

「ここに残って――僕を待ってくれてもいいんだよ」

「いやっ! ライカは絶対にクーにぃと一緒に行くのっ!!」

「もう一度だけ、友達にお別れの挨拶をしておいで」


 僕はライカに耳打ちする。


「……ライカ、一度行ったら戻れる保証はどこにもない。ちゃんと、前から向き合って言葉にしてくるんだよ」

「……うん。わかってる、わかってるよ」


 ライカが皆のもとに走って行く。


「にはは。置き去りにして――いきなり飛び立ってみるか? 怒り狂って泣きながら追いかけて来るかもしれないぞ」

「一生恨まれそうだからやめておこうかな」

「まあ、言葉にするというのは――妾も賛成だな」

「聞こえてたんだ」

「当然、ドラゴンの耳を舐めるな。貴様が妾の文句とか言ってたら、すぐ拳骨をしに行ってやるぞ」

「もう拳骨は勘弁してよ。あの日、後半の記憶が曖昧なんだよね」

「……曖昧のままでいい」


 白雪がそっぽを向きながら言う。

 ライカは鈴華姫の方に駆け寄り、珍しく笑顔で話している。

 そして、自身の髪に付けている真っ白なリボンを手渡した。


「鈴華にライカの大事なものをあげる」

「だったら、鈴華もお返しにやる」

「……桜の、簪?」

「鈴華の宝物じゃ。旅のお守りとして――身に付けておくのじゃ」

「ありがとうっ!」

「必ず、戻って来るのじゃぞ」

「うんっ!」


 ライカは皆に両手を振りながら、


「鈴華、ライオンのおじさん、風花、隊員さんたちっ! ライカ行って来るねぇっ!!」

「ライカ、準備はいいかな?」

「……ねぇ、クーにぃ、ライカは認識を間違えていたのかも。皆生きていて、もとの世界と一緒で、優しい人も悪い人もいるんだよねぇ」

「世界が変わろうが関係ない。心を見ることが大事だと思うよ」

「……ライカ、変われるかなぁ」

「僕からしたら、君はもう立派に変わっている」

「えへへ。行こう、クーにぃっ!」

「師匠、頼むっ!」

「ああ。誇り高きドラゴンの背に乗れたこと生涯自慢しろっ! 妾に掴まれ――振り落とされるなよっ!!」


 白雪の翼が大きく羽ばたく。

 皆の姿が一気に遠ざかっていき、遥か上空の彼方へ――今、僕たちはウィンウィンに向かって飛び立つのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る