第215庫 仲間のもとへ

 病院に着いて自身の目を疑った。

 ベッドの上にいたのは――"Eisen"のメンバー、レイナさんだったからだ。遠くを見つめるような虚ろな瞳、その表情から状況を察するに容易かった。

 お医者さんの話によると、全身ボロボロで倒れていたという。

 心身共に疲弊しきっているため、こちらから声をかけても――頷くくらいの反応しかないようだ。

 僕はそっと、レイナさんに話しかける。


「……レイナさん、僕がわかるかな」

「クーラ、ちゃん? クーラちゃん?」


 僕の声に気付き――目の焦点が合う。


「なにが起きたか話せる?」

「うぅ、うぅあうっ!」


 レイナさんが飛び起き、涙を流しながら僕に抱き付く。


「サマロが、サマロが死んだのっ! 私を庇うよう突き飛ばして――最後に見た時、全身がバラバラに、吹き飛んでいたっ!! 空から光が降ってきて、ウィンウィンは、一瞬にして、火の海になったっ!」


 まだ混乱状態なのだろう。

 レイナさんは起こった事実だけを羅列するよう叫び続ける。

 サマロが――死んだ。

 衝撃的な内容に、ただ黙って聞くことしかできなかった。

 僕はレイナさんを落ち着かせるよう――優しく抱きしめ返す。


「レイナさん。無理に話さなくてもいい」

「……ごめん、なさい。冒険者がこんな、取り乱しちゃ駄目よね。クーラちゃんにも、関係がある話だから、聞いてほしいの」


 レイナさんは僕から身を離し、泣き腫らした目で視線を上げながら、


「猫ちゃんがね、戦い続けてる」

「……ナコが?」

「空に浮かんでいた物体に、火の都サラマンのシンボルが刻まれていた。私はその物体から降り注いだ謎の光を受ける直前、サマロが海に突き飛ばしてくれたおかげで直撃は免れたわ。ただ、その余波による衝撃で気を失ってしまったの」

「……それでこの大陸に、流れ着いていたんだね」

「その瞬間、私たちと一緒に猫ちゃんもいたの。サマロが死んだ時、猫ちゃんは空に浮かぶ物体に――単身攻め込んで行ったわ」


 ナコらしい行動、感情が抑えきれなくなったのだろう。

 ナコが無事だったことは素直に喜ぶべきことだが、恐れていた事態が起きて――サマロが死んでしまったという事実は覆しようがなかった。

 最早、サマロに限った話ではない。

 人の命が大量に散る、フレイムドルフによる侵略が――始まったのだ。

 僕はその初手を――未然に防ぐことができなかった。

 ゲームのシナリオ通りといえば、シナリオ通りに進行している。

 しかし、今はプレイヤーの手によって変えられる世界なのだ。

 救える命があれば――それに勝るものなどない。


「……ごめん。レイナさん」

「あなたが謝る理由なんてないわ。むしろ、私の方がごめんなさい。猫ちゃんを置き去りにしてしまったのだから」

「空に浮かんでいた物体、どんなものかわかる?」

「……鉄の塊、みたいな感じだったかしら。あんなものが、空を飛べること自体ありえないわ。そこから、光が、光が、降ってきて」


 その光景を思い出したのか、レイナさんが嘔吐く。

 今はこれ以上、話をしてもらうのは――心に負担がかかる。

 僕はレイナさんをベッドに寝かせて休むよう促す。


「……クーラちゃん」


 僕はレイナさんの手を握る。

 少し安心してくれたのか、レイナさんが目を閉じ――すぅすぅと、小さな寝息が聞こえてきた。


「……クーにぃ、マスターはなにをしようとしているの?」


 横にいたライカが悲しそうに言う。

 そう、フレイムドルフの背後には確実にやつが――リボルがいる。要塞でフレイムドルフが豪語していたこと、あの時に感じた近代的な文明、空を飛ぶ物体はそれに準ずる戦闘機器であるに違いない。

 とめなくてはいけない――とめなきゃならない。


「今度こそ、フレイムドルフを倒してみせる」


 今、僕はナコのもとに行く。

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