第208庫 感度爆増

「それじゃ、触診を試すね」

「優しく、優しくだよ? なんかドキドキするぅ」


 状態異常を付与する。

 対象を治癒する時とは――真逆のイメージ、どういったものを触診から通してみるべきか。

 よし、軽い麻痺ならライカに負担も少ないだろう。


「行くよ、ライカ」

「感度を10倍にしてみるのはどうだ?」


 白雪さん?

 まさに、僕がライカに麻痺のイメージを付与しようとした瞬間――横から余計な口出しが入る。

 否が応にも変な妄想が――脳内に浮かんでしまった。


「……んんっ、はぁ」


 時すでに遅し。

 ライカが頬を真っ赤に、艶めいた声を上げる。僕のイメージがライカに伝わったということは――一目瞭然だった。


「く、クーにぃ、なんか、ライカの身体おかしいよ」

「ごめん。感覚というかなんというか――敏感になったかもしれない」

「おぉ、上手くいったじゃないか。萌太郎もこの感度上昇はよくやっていた。悶える妾の姿を見て喜んでいたからな」


 萌太郎さん――最早なにも言うまい。

 くたりと、ライカがへたり込む。その弱った姿を見て嬉しそうに、悪戯を思い付いた子供のような顔付きにて――白雪がライカを指でツンツンし始めた。


「や、やめてぇ。なんか、ライカ、くすぐったいの」

「どこが気持ちいい? 教えてみろ」

「これ、気持ちいいっていうの? よ、よくわからないよ」

「ふっ、仕方ないな――妾に身を委ねてみろ、手ほどきしてやる」


 白雪がライカの膝に座り、抱き合うような形で――フッと、耳に息を吹きかける。


「ひゃぅうっ」

「ストップ、ストップっ!」


 僕は白雪を全力で制止する。

 子供相手になにやってるんだ――と、言いたいところではあるが、ドラゴンだからそこら辺の倫理観、僕たちとは大分ズレているのか。


「邪魔をするな。今から楽しくなるところだぞ」

「ならないからねっ?! もう状態異常が付与されたのはわかったからっ!!」

「小うるさいやつだ。まあ、触診に関してはオーケーだが――あと一つ、大事なことが残っている」


 白雪は立ち上がり、真っ直ぐに僕を見やる。

 つい先程まで、ライカにフザケていたような姿はない。

 ここからが本題と言わんばかりに、いつになく真剣な表情をしていた。


「"暴食"――妾は貴様がこのスキルを習得するのを待っていた。それは萌太郎の主力となっていたスキルだ」

「暴食が、萌太郎さんの――主力?」

「ああ、貴様には暴食を完璧に扱えるようになってもらう。戦いながらどんな場面にも対応できるようにな」


 白雪は挑発するよう僕に手招きしながら、


「最終調整だ。今の全てを持ってして――妾を打ち破ってみせろ」

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