第201庫 想いを言葉に

「クーにぃっ! クーにぃっ!!」

「落ち着け、大丈夫と言っているだろう」

「嘘だったら許さないっ! ぶっ殺してやるっ!!」

「ああ、もう落ち着けっ!」


 騒々しさに目が覚める。

 薄っすらとまぶたを開くと――ライカと白髪のドラゴンが言い争いをしていた。逆鱗に触れた辺りから記憶が途切れ途切れである。

 状況から察するに、答えは一つだろう。


「僕、気を失っていたんだね」

「クーにぃっ?! よかったぁああっ!!」


 身体を起こした僕に、ライカが飛び付いて来る。


「ピンク娘、妾の言った通りだろう。なんせ、ドラゴンの血――妾の血を与えてやったのだぞ。どれだけ希少か理解しているのか? 怪我や病気くらいすぐに回復する」

「ごめん、ありがとう。迷惑をかけたね」

「ふんっ、もっと敬うように礼を言え。貴様、失血死しかけていたのだぞ? 捨て身で特攻するにもほどがある」

「そんな希少な血を僕に――本当に感謝感激です」

「うきーっ! 素直に言われると、妾が悪者みたいになるだろうがっ!!」


 む、難しいな。


「僕が気を失っている間に、とどめを刺そうとは思わなかったの?」

「はっ、貴様に引っ付いているピンク娘が入れ違いで目を覚ましてな。仲間を守るという強い意志を持つやつは――同じく捨て身で来る可能性がある。こいつもなにをしでかすかわからないからな」


 白髪のドラゴンがやれやれと頭を抱えながら、


「妾は連なりの巨塔に住むドラゴン――名は白雪だ。クーラといったな、妾も貴様に一つ問わせてもらう。どうして最後に手を抜いた?」

「白雪っていうんだ。髪の色に相まって凛とした名前だね」

「んなっ! そ、そこじゃないっ! 先に妾の質問に答えろっ!!」

「君が悲しそうだったからだよ」

「妾が、悲しそう?」

「悲しみを戦いで解決しても――意味はないと思ったんだ。君が僕に想いをぶつけてきたように、僕は自分の想いをぶつけた」

「……貴様、言葉まで似たようなことを言うか」

「よかったら、その触術師の話を聞かせてくれないかな」

「聞いたところでどうなる?」

「君の気持ちを理解することはできるかもしれない。言葉にしない限り、想いが伝わることは絶対にないから」

「クーにぃの言う通りだよ。今日の晩ご飯、なにが食べたいかなんて――口にしないとわかるわけないよねぇ」

「ピンク娘、話が混同するから少し黙っていろ」

「ピンク娘じゃありませんー。ライカはライカって名前があるもん」

「ああ、ライカだな。わかったわかった」

「よろしくね、白雪っ!」

「偉大なドラゴンを呼び捨てか――まあ、いいだろう。貴様たちにとやかく言う気はもう失せた」


 降参したように白雪が両手を上げる。

 そして、なにかを振り返るように、なにかを深く思い出すように――白雪がゆっくりと瞳を閉じた。


「……二千年ほど前だ、貴様と同じ触術師が妾に会いに来たのはな」

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