第202庫 新たなる懸け橋
「当時、ドラゴンと大陸の民は争い合っていたのだ。日々、誰かの血が流れ――誰かが涙していた。ドラゴンとて大人数に襲われては命も散らす。いくら最強種といえど、個体数が少ないことは致命的な弱点であった」
白雪は言う。
「争いが激化していく中、ある時一人の男が妾たちの前に現れたのだ」
それが、触術師だったという。
「その男の名は、Moetaro――漢字では『萌太郎』と書くと、誇らしげな顔で教えてきたぞ」
「いやもう、絶対にプレイヤーだっ!」
やはり、過去に転生したプレイヤーはいた。
それにしても――萌太郎か。
ネタに走ったネーミング、転生したことすら運命として受け入れてそうな感がある。
「無論、妾たちは正体不明の異物など排除しようと動いた。しかし、驚くことに――萌太郎一人にドラゴンは制圧されてしまったのだ」
「萌太郎さんそんなに強かったのっ?!」
「強いなんてレベルを超越していた。妾たちは為す術もなく、拘束されて身動き一つ取れず地に落とされた」
白雪はその時の光景を思い出してか――身震いする。
触術師を極めていたものが、オンリー・テイルの世界にいた。パーティーを組まずソロ活動をメインとしていたのなら、掲示板に名前が載らない可能性も高い。
「大陸の民は今が好機と妾たちを殺そうとしたが、萌太郎がさらに大陸の民すらも拘束して言ったのだ。あの時のやつの言葉は――今でも鮮明に覚えている」
白雪は目に涙を浮かべながら、
「僕はどちらの敵でも味方でもない。今宵限りで全て終わりにしよう、大切なものを互い失い続け――その先にどんな未来が待っている。僕は触術師、君たちを繋げる懸け橋となろう、とな。萌太郎の一言に場は静まり返った。妾とて大陸の民との争いで家族や友人を失っていた、それは向こうとて同じことなのだ」
「名前のセンスの割に格好いいこと言う人なんだねぇ」
ライカが感嘆したように言う。
「萌太郎とは変な名前になるのか?」
「変というよりは、初見で笑いを取るためのネーミングな気はする」
白雪の問いに僕は答える。
「ん? もしかして、このモーエン大陸の由来って」
「貴様の察した通りだ。萌太郎がサンサンの国を作り、連なりの巨塔を作った。一緒に仲良く過ごせるようにとな。サンサンの民が食料を運ぶのは、妾たちが大陸を守護するための報酬だったのだぞ」
「そんな関係性だったのか」
「今となっては廃れたものだ。何故、食料を運ぶのか――萌太郎亡き後、その理由すらも風化しているに違いない」
「それって、深刻な問題なんじゃ――また争いが起きたりしないの?」
「大陸の民に付く意味がないと、賛成派と否定派に分かれていて面倒臭いことになっていたところだ。だが、もう今日で――その問題は解決する」
「今日で解決、する?」
「妾は連なりの巨塔の長、白雪――触術師クーラ、貴様がモーエン大陸の新たなる懸け橋となれ」
白雪は僕を真っ直ぐに見て――そう言い放つのであった。
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