第199庫 過去から繋がる想い

「まずは、そこで倒れている娘から喰らってやろう」


 避けたかった事態が――起きる。

 塔内を見渡すが、白髪のドラゴン以外は見当たらない。何体いるかは不明だが、総力戦で来られていたら一瞬にして終わっていただろう。


「もう一度、話し合いは不可能ですか?」

「不可能だ。妾を使おうなどと、自惚れたことを言った戒めに――圧倒的な力で思い知らせてやろう」


 白髪のドラゴンの姿が変化する。

 全長20~30メートルほど、全身を覆う白い鱗、獰猛な赤い瞳、紛れもない――最強種がそこにいた。

 ドラゴンにしては小さい方か――なんて油断はできない。

 ドラゴンの強さは大きさで決まるわけではないからだ。実質、ディスク3枚目にでてくるボスは――小さな部類に入るドラゴンだった。

 白鱗のドラゴンは威嚇するよう翼を上下させながら、


「その娘をエサとして置いていくか? 貴様の命だけは助けてやってもいいのだぞ」


 僕は真っ直ぐに対峙する。

 ライカ、ごめん――窮地だ。敵対してしまった今、もう気を遣う必要もない。


「ふざけるな。それだけはありえない」

「妾と戦うということか?」

「ああ。逃げるくらいなら――相打ち覚悟で君に挑む」

「貴様、本当に面白いなっ! ならば、妾に勝ってみせろ――勝つことで娘を救ってみせるのだなっ!!」


 巨大な身体からは想像できない速さ――白鱗のドラゴンが爪を振るう。


「傀儡糸っ!」


 触診、全身に白い糸状の触手を張り巡らせる。

 僕の全力状態、出し惜しみはしない。爪の攻撃を籠手で受け流すが――あまりの威力に火花が散り端の方まで吹っ飛ぶ。

 やはり、ゴザルのように――上手くはできないか。

 しかし、直撃するよりは幾分もマシだ。まだまだ僕は動ける、塔の壁を踏み台に――触手をバネ状に跳ね戻った。

 その僕の一連の動作に、白鱗のドラゴンが硬直する。


「……貴様、まさか、触術師なのか?」

「驚いた。こんなレアなジョブを知っているんだね」

「知っている、知り尽くしているに決まっている。この塔を建てた妾の友は――触術師だったのだ」


 悠久の時を生きるドラゴン、最近の話ではないだろう。


「……何故、今さら来たのだ」

「今さら、来た?」

「遅すぎる、遅すぎるのだ。妾がどれだけ待っていたと思っている?」

「……君の言っていることがわからない」

「わからなくてもいいっ! それでも、何千年という妾の想い――貴様が受け止めろ、受け止めねばならないのだっ!!」


 塔全体が震動する。

 まるで、子供が泣き叫ぶかのように――白鱗のドラゴンが咆哮した。

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