第198庫 連なりの巨塔

「大きい塔だ」

「大きいねぇ」


 僕とライカは塔の入り口にたどり着いていた。

 このドラゴンの巣の正式名称は『つらなりの巨塔』というらしい。黙って入ってしまっていいものか――ライカの話では威嚇していると言っていた。歓迎されていないことだけは確かだろう。

 局長も僕の作戦には厳しい顔を隠せずにいた。

 ドラゴンの中には友好関係の賛成派、否定派――二つの意見があるとのことだ。

 今は賛成派が多数なため穏便な時が流れてはいるが、その均衡はいつ崩れてもおかしくないという。


「とりあえず、扉でもノックしてみようか」

「こらー、ドラゴンっ! でてこいでてこいっ!!」


 言うが早いか、ライカが勢いよく扉を叩く。

 すると、まるで獣の口のように――大きく入り口が開いた。内部は真っ暗闇、お化け屋敷感が溢れている。

 こ、怖い、怖すぎる――もうすでに入りたくない。


「……クーにぃ、先に入っていいよ」

「急に威勢がなくなってるっ?!」

「ライカ、お化けだけは駄目なんだぁ」

「大丈夫、お化けなんていないよ――多分、多分ね」


 僕は恐る恐る先に入る。


「ライカ、火をお願いできるかな」

「瞬炎っ!」


 ライカが指先に火を灯す。

 ぼんやりと、照らされた塔内は――外観の見た目同様、荒れ果てていた。

 瓦礫、瓦礫、顔、瓦礫――今、視界になにか映った気がする。

 気のせい、気のせい、だよね?

 僕は見直すべく逆回転、瓦礫、顔、瓦礫、瓦礫、


「ぐわぁ、あ、あ、あ、あ、あああっ!」


 暗闇に浮かんだ顔が叫び出す。

 ライカは恐怖が限界を超えたのか――泡を吹きながらそのまま後ろにぶっ倒れる。どうやら、気を失ってしまったようだ。

 瞬間、パッと塔内全体が明るくなる。

 天井に紫色の玉――僕の目の前に立つ人物が放った魔法だろう。人間の姿形はしているが、溢れ出す魔力量から人外であると容易にわかる。

 その人物は僕たちの反応を見て大笑いしながら、


「にはは、どっきりびっくり大成功っ!」

「どっきりびっくりどころか、僕の心臓が一瞬とまりましたよ」

「それは驚かせる側、妾からすれば――ほめ言葉以外のなにものでもない」


 頭に角の生えた少女が立っていた。

 ゆるふわとした肩まである真っ白な髪、不透明色に反する血のような赤い瞳、高校生くらいの若々しい見た目だが――猛々しい立ち振舞、圧倒的な存在感から強者であると瞬時に理解できる。

 今いる場所も含めて――答えは一つしかない。


「ドラゴンですよね」

「その通りだ。魔力を変換して人間の姿を模しているのだが――よくわかったな」

「桁違いの魔力量だけでもわかりますよ」

「そこまでわかっていながらも、怯えているようには見えないが?」

「怯えるを通り越して、開き直っているだけですよ」

「貴様、面白いことを言うな」


 白髪のドラゴンがくつくつと笑う。

 その口の端には、隠し切れていない鋭い牙が覗いていた。話をしてくれているのはありがたい。

 僕は単刀直入に本題に入る。


「僕の名前はクーラ、倒れている仲間はライカです。あなたたちドラゴンにお願いがあって来ました」

「そうかそうか。妾たちに願いがあって来たか」


 白髪のドラゴンは言いながら、


「人間風情が? 百年も生きていない劣等種族が? 悠久の時を生きる誇り高きドラゴンに願いか?」


 殺意の込もった魔力が塔内に溢れ出す。

 あっれーっ? もしかして、僕――開幕から選択肢ミスっちゃいましたっ?

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