第177庫 異色のコンビ

 目を覚ますと、緑の真ん中にいた。

 森も森、大森林、モンスターに喰われなかったのは幸いだろう。魔力の粒子になった影響なのか――怪我は全て完治していた。

 僕の意識が覚醒していく――皆、皆はどうなった?


「ナコ、ゴザルっ?!」

「クーラお姉さんっ!」

「うわぁっ」

「よかった。目覚めたんだぁ」


 ライカが木の上から降ってきた。

 そして、嬉しそうに僕に抱き付く。なにこの懐かれ方――急な距離感に驚き、僕はされるがままになる。 


「もしかして、僕のことを守ってくれていたの?」

「うんっ! ほめてぇっ!」

「ありがとう」

「んっ!」

「んっ?」

「んんーっ!」


 ライカが僕に頭を向けてくる。

 えーと、なんだろう――なでろってことかな? とりあえず、ナコにするような感覚で優しくなで回してみる。

 狐耳も柔らかいなぁ、ミミモケ族ってすごい触り甲斐があるというかなんというか。

 正解だったようで、ライカが顔をほころばせる。


「ところで、僕以外に誰もいなかった?」

「クーラお姉さんだけいたんだぁ。木の上から周囲も見渡してみたけど、ライカたち以外は誰もいなかったよ」


 調査してくれていたのか。

 頼もしい限りだが、つい先ほどまで敵であったこと――なぁなぁのまま一緒にいるのも違う気がする。

 そんな僕の心配は他所に、ライカが満面の笑みにて、


「ねぇねぇ、まずはお腹空いたから一緒にご飯食べよっ」

「ご飯?」

「森にいるモンスターを狩ってきたの。解体して味付けしてあるから、あとは焼くだけだよっ」


 と、ライカが印を結び、


「"瞬炎"っ!」


 肉を焼き始める。

 た、頼もしい限りだが、つい先ほどまで敵であったこと――いやもうなんか素直そうな子だし気にせず接するか。

 絶体絶命の瞬間、一人で逃げることもできたのに、ライカは戻って来てくれた。

 助けてくれた事実は揺るがない、警戒したところで相手をいやな気持ちにさせるだけだろう。

 パチパチと肉が焼ける音、香ばしい匂いが広がっていく。


「どんな種類のモンスターだったの?」

「んんー、見たことないモンスターだったよ。なんか角が3本くらい生えてて、イノシシみたいな感じだったかなぁ」

「見たことないモンスター?」

「ライカの記憶にはなかったよ」


 まあ、モンスターの種類は多い――忘れることもある。

 イノシシみたいな見た目であれば、毒を持っているという可能性は低いだろう。肉もいい具合に焼けたところで、僕はお皿に移して準備を整える。

 ここまでしてくれたのだ、仕上げくらいはやらせてもらおう。


「クーラお姉さん、食器まで持ってるんだぁっ!」

「昔、キャンプに憧れていたんだ。憧れていただけで――もとの世界では一度も行ったことなかったけどね」

「ライカもそういうのわかるっ」

「実際に行くってなると、中々最初の一歩が踏み出せないんだよね」

「うんうんっ! 動画とか見てるだけでいっぱいになっちゃうっ!」

「まさにその通りだったよ」

「ライカとクーラお姉さん、ニコイチだねぇ」

「……」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」


 ニコイチ、か。

 以前、ナコがそう話していたことを――思い出した。ナコとゴザル、僕が無事であったならば生きている可能性は高い。

 そうだ、フレンドリストがあるじゃないか。

 起きたばかりの寝ぼけた状態、完全に頭から抜けていた――僕はウィンドウを表示、ネームの色がどうなっているかを確認する。

 そして、予測不可能な事態が起こった。


「……ウィンドウ表示が、バグってる?」

「あ、クーラお姉さんもライカと一緒なんだ。なんかね、マップ機能とかも全部ザーザーって画面になるんだぁ」


 続けて、マップも表示する。

 ライカの言う通り、重要な機能は全て使用不可となっていた。

 身体が魔力の粒子になった後遺症なのか?


「……クーラお姉さん、お肉冷めちゃうよっ?」

「あ、ごめん。ボーっとしていたよ」

「仲間のことが気になってる?」

「フレンドリストで確認できていたら――いや、それも現実を知るって意味で怖いことではあるんだけどね。見れなくてよかったのか、見て安心したかったのか、今は上手いこと答えがでてこないかな」

「ごめんなさい。ライカ、無我夢中だったから――どうにかしなきゃってことしか考えてなかったの」

「いや、謝る必要なんてないよ。ライカのおかげで僕は今生きている」

「で、でもでもっ」

「……僕も一つ聞いていいかな? 今回、ライカはリボルを裏切った形になったけどよかったの?」


 正直に聞いてみる。

 少女の素直な気持ち、ライカは今どう思っているのだろう。

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