第176庫 口寄せの術

「忍者ライカ、超越者スキル"禁術"――口寄せ、九尾ぃいいっ!」


 九つの尾を持つ狐が顕現した。

 全身は雪のように白く、その姿はとてつもなく巨大、強大で異様な魔力が周囲に広がっていく。

 ライカは九尾に乗りながら、フレイムドルフに攻撃を仕掛ける。

 圧倒的な質量差、さすがのフレイムドルフもこの一撃は効いたのだろう。

 剣で防御はしたものの――勢いよく吹っ飛んでいく。


「この、ピンク頭がぁっ! 我の邪魔ばかりしおってっ!!」

「ライカ、赤髪の人大嫌いっ! 消えてぇっ!!」


 そして、僕たちを守るよう前に立った。

 予想外の救世主、僕とゴザルは呆然と九尾を見上げる――今はただ、流れに身を任せるしかなかった。


「九尾ちゃん、ライカたちを助けてっ!」


 九尾の全身が光り始める。

 爆発的に膨れ上がっていく魔力、大変なことが起きる前兆なのだと確信する。

 いや、これ本当に大丈夫? 自爆とかじゃないよね?


「リボルにゃん、なんかやばそうな雰囲気あるけど――アレはなに?」

「九尾という霊獣だよ。"禁術"は制御できないから、使うなって再三注意していたんだけどね。まあ、今さら俺との約束なんて守るはずもないか」

「そもそも、超越者クラスなら切る必要とかなかったんじゃないの?」

「超越者とはいえど――制御できない力なんて、力のうちに入らないさ」


 やれやれと、リボルがため息をつく。


「単純に魔力を暴発させているから、正直なにが起こるか掴めないんだよ。前に口寄せした時は、辺り一帯が吹っ飛んだかな」

「それヤバくないかにゃあ」

「あっはっは。もう逃げるのも間に合わないね」


 少しずつ、少しずつ、皆の身体が粒子になって散らばっていく。


「この世界に生きる人間は魔力を土台に形成されている、一度粒子に変換し霧散させてくるか――どうやら、俺たちと戦うことは避けて逃げるという形を取ったようだね。今のライカの気持ちが具現化したんだろう」

「解説ありがたいけど、これはどうなるのにゃあ? にゃっちの身体、半分くらい粒子になってるのね」

「神隠しみたいな現象が起きると俺は予想するよ。簡潔に言うなら――無差別に転移が起きるんじゃないかな。どこに飛ばされるかは俺にもわからない」


 神隠し、か。

 僕はナコとゴザルを腕の中に収める。今こうして身を寄せ合っていれば、なにが起きても繋がり合える気がしたからだ。


「……ソラ」

「大丈夫、なんとかなるっ!」

「あなたって、ポジティブなところあるわよね」

「あはは。今の状況より悪くなることなんて絶対にないよ」

「ふふ。それもそうね」


 ゴザルもつられて笑みを浮かべる。

 どんな形であれ、生存する可能性があるということは――一番重要なことだ。

 願わくば、この神隠しが仲間と同じ場所であると信じたい。

 全身が粒子となる直前、リボルが僕に振り向き、


「この展開は俺にも読めなかった。君が土壇場で引き寄せた奇跡といっても差し支えはないだろう」


 視界が徐々に――薄まっていく。


「クーラ、またどこかで会えると信じているよ」

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