第173庫 3 vs 3 その3

「あぁー、服が汚れちゃったよ」


 ゴミを扱うかのように、ホムラが僕を投げ捨てる。

 僕は一転、二転、地面を転がり――倒れ込む。大量に吐き出される血、このままでは確実に死ぬということが理解できた。

 最後の力を振り絞り、触診を損傷部に張り巡らせる。

 この大怪我、魔力は――足りるか?

 いや、四の五の考えるな。今は全力で意識を治療だけに集中するんだ。

 ナコが呆然と僕を見る、僕はただ微笑み返すしかなかった。


「……クーラ?」

「死んだんじゃないかな? 急に割り込んでくるソラちゃんが悪いよね。本当に空気が読めないっていうの? 私、ソラちゃんのこういうところ苦手だな」

「……もう、黙ってください」

「ん? なになに、大事なソラちゃんが倒されて――怒っちゃったの? 沸点低すぎないかな?」

「黙、れ、ぇええええええっ!」


 ナコがハッピーを構えて突撃する。


「ようやく、やる気をだしてくれたみたいだねっ!」


 それをホムラが受けとめ――闇と光が激突した。

 ナコの猛攻を、ホムラは難なく防ぎ切る。ホムラの精霊憑依による戦い方は、完全な近接型――ナコと全く同じ土俵、精霊術師の基本を逸脱していた。

 本来、精霊術師は後方からの支援がメインとなっている。

 超越者スキルによる新しい戦闘スタイル、ホムラはまだ本気をだしていない。経験の差も加えれば、ナコが不利なことは明白だった。

 ホムラは余裕綽々の笑みを漏らしながら、


「あはは、ナコちゃん――その程度で私に勝てるつもり?」

「クーラに、謝れぇぇ、えええ、ええええええええええええっ!」

「謝ってほしかったら、力尽くで謝らせてみろぉおおおおおっ!」


 黒と白が爆発する。

 腹部の損傷により、見守ることしかできない僕――そんな中、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「おっと、参ったな。用事が終わって来てみれば――残念、想像以上に面白いことが起きているじゃないか」


 飄々としていて捉えどころのない人物、


「やぁ、久しぶりだね――クーラ」

「……リボルっ!」

「瀕死状態だけど大丈夫かい? 俺が助けてあげようか?」

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「あっはっは。そんな気もない癖に――近付いた俺をまた殺すかい?」

「今、僕にそんな余力はないよ」

「そういう素直なところも気に入っているんだよ」


 リボルは嬉しそうに笑いながら、


「クーラ、本当に数奇な巡り合わせだよ。"Nightmares"のメンバーと顔見知りだったことも驚いた」


 その時、ゴザルが弾き飛ばされて僕の方に転がって来る。

 全身ボロボロの状態、膝を付いて息を切らす。連戦により魔力が欠乏している中――ゴザルはニャニャン相手に奮闘していた。

 しかし、それもここまで――ゴザルの手から刀が零れ落ちる。

 最早、握る力も残っていないのだろう。

 不意に、ゴザルがリボルの背後を見て身体を硬直させた。


「……どうして、あいつが生きているのよ」


 あいつが、生きている?

 ニャニャンがリボルの横に並び立ち、僕とゴザルを見下ろす。

 敵意の込もった冷徹な眼差しに対し、睨み返すことしかできなかった。


「リボルにゃん。このまま――殺しちゃった方がいい?」

「いや、それは彼がやめてほしいらしいよ」


 疑問は――すぐに解消される。

 リボルの後ろから、見知った顔の男がゆっくりと歩み寄って来たのだ。先ほどまでの激戦が嘘だと思えるほどに、男は悠々とした態度で現れた。

 フレイムドルフは静かな声で言う。


「久方ぶりと言っていいものか。先刻の戦いは最高だったぞ」

「……リボル、まさかっ」

「ご明察、そのまさかだよ。俺の超越者スキル"因果の掌握"にて――蘇らせた。この世界を好き勝手楽しく生きるためには、まだ退場してもらっては困るからね」


 最強最悪の二人が――肩を並べていた。

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