第172庫 3 vs 3 その2

 ゴザルとニャニャンが激しいバトルを繰り広げている。

 ニャニャンのトリッキーでハチャメチャな動き――乱打、足技、投げ技、ゴザルが翻弄されている。どこから来るかわからない無差別な攻撃、素早さもニャニャンの方が上のため防戦一方となっていた。

 これが拳闘士の真髄――やはり、ニャニャンは群を抜いて強い。


「おらぁっ! ゴザルにゃん、にゃっちの肉球パンチが直撃したら――愛の尊さを知りながら逝っちゃうよっ!!」

「なにが、愛の尊さよっ! 気持ち悪い説明付けてこないでっ!!」

「にゃっはっは、反論するより反撃したら? ああ、できないのね? にゃっちの動きに追い付いてないもんね」

「うるさいっ! 私を舐めないでっ!」

「舐めてはないよ? ぺろぺろにゃあ」

「ぐぐぐ、こんな大事な時に――フザケた態度取るなっ!!」


 あの二人の間に割って入る勇気はなかった。

 むしろ、乱入すれば――ゴザルの足を引っ張ることになるだろう。ここはナコとホムラの様子を見に行くのがベストと判断した。

 僕はライカを触手で引っ張りながら移動する。

 ナコとホムラ、向かい合ったまま――なにかを話し合っていた。

 聞く耳持たずのホムラだが、ナコは諦めずに声をかけ続けているようだった。


「ホムラお姉ちゃん、話を聞いてっ!」

「だから、もう聞く気もないんだよ。何度言ったらわかるのかな? 言葉でわかってくれないなら、身体でわかってもらうしかないよね」


 ホムラが魔法陣を展開する。

 その数、1、2、3、4――完全に本気なのだと瞬時に理解できた。

 精霊術師は自身のレベルに応じて精霊を使役できる数も増える。

 本来、精霊術師はどれだけ極めても――2体同時召喚が限界だ。

 ホムラだけは違う、ホムラの持つ超越者スキル"精霊王"――このスキルは同時召喚の限界を超えることが可能となり、さらに驚愕の力を兼ね備えていた。

 魔法陣から龍が姿を現していく。


「火龍、水龍、土龍、風龍――"精霊王"の名のもとに私に力をっ! 精霊憑依、四属性エレメントマスターっ!!」

「……ホムラお姉ちゃん」

「今日まで本気の姉妹喧嘩はしたことなかったよね。だって、いつも私が泣いて折れていたから――今回その未来は訪れないよ」


 ホムラの全身から白い光が噴き出す。

 精霊の力を借りたブースト、恐ろしいまでの魔力量――底が見えない。その姿はまるでドラゴン、柔らかな光を帯びた鋭い爪に翼が生えていた。

 怯えるナコに、ホムラは淡々と呟く。


「ナコちゃんが闇なら、今の私は光――ぶつかり合うにはピッタリかな。遠慮せずにかかっておいでよ」

「わ、私は、私はっ」

「来ないなら、こっちから行くよっ!」


 ホムラが地を蹴り――ナコに飛びかかる。

 このままでは、ナコは戦うことができないだろう。だからといって、放置をしてはなぶり殺しにされるかもしれない。


「やめろ、ホムラっ!」


 僕は二人の間に割って入る。

 触手はライカを縛るのに使用中、触診による傀儡糸――最早、その状態になる魔力は残っていない。

 僕にできることは一つだった。


「邪魔だよ、ソラちゃん」


 ホムラの右手が――僕の腹部を突き刺した。

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