火の都サラマン激突編

第158庫 火の都サラマンの王

 安らぎの満天での楽しい休暇も終了し、僕たちはホームに戻って来た。

 ホームの方はすっかりと元通りに、この短期間で修理を完了してくれた作業員さんには頭が上がらない。

 ニャニャンが満面の笑みで拳を天に掲げながら、


「皆、心身共にゆっくりと休息はできたかにゃあっ!」


 各々深く頷き返す。

 ナコとホムラもゆっくりと話し合うことができたのだろう。以前と比べてお互いに表情も柔らかい。

 まさに仲良し姉妹、見ているだけで和やかな気持ちになる。


「さて、今後についての――真面目な話といくのね」


 ニャニャンの表情が切り替わる。


「順序よく言うとね、今この世界は――ディスク1枚目、火の都サラマンが復活するという最大級のストーリーに直面しているわけなのよ」


 火の都サラマン。

 滅びたと認識されていた火の都は静かに再燃の機を狙い続けていた。その準備が整った今、三国に対して宣戦布告をする。

 この世界を支配しようとしている火の都を、プレイヤーの手で阻止するというのがディスク1枚目、2枚目のメインストーリーだったのだ。大陸龍を転覆させて王都との連絡通路を断つこと、その後三国を順番に攻め込むという作戦が火の都サラマンの最初の一手となっていたが――その一手はすでに封殺している。


「白龍の騎士の襲撃による大陸龍の活動停止はにゃっちたちの手で未然に防いだ。サラマンは新たなる作戦を構築中との情報が今しがた手に入ったのね」


 貴重な情報だ。

 もしかすると、ここにはいないラミュアが色々と動いているのかもしれない。

 一連の話を聞き、ゴザルが口を開く。


「構築中、ね。三国に対して宣戦布告はなされたのかしら?」

「まだなのよ。王都との連絡通路が断てなかった今、それは早計な判断と捉えているに違いないのね」


 火は静かに燃え続けている状態。

 世界は刻一刻と変化しつつある、最終的には穏やかな形に落ち着くのが理想だ。

 しかし、そのルートをたどるのならば最善を尽くしたい。


「ニャニャン、僕たちはプレイヤーとしてどう行動すればいい?」

「この世界の均衡を保つため、火の都サラマンの王『フレイムドルフ』を殺さなきゃいけないにゃあ」


 ニャニャンは断言する。


「もし、このミッションを完遂できなかったら――オンリー・テイルの世界は破滅への第一歩をたどることになるのね。ゲーム時はプレイヤーの手によって救われた、なにもしないということは違う世界線に向かう未来は確定なのよ」


 火の都サラマンの王フレイムドルフ。

 ディスク1枚目、2枚目のラスボス的存在だ。火の魔法を主とした魔法剣士、圧倒的な力にてプレイヤーをねじ伏せて来る。人体実験、人間と魔物の配合、自身の掲げる理想を叶えるためなら犠牲をものともしない。

 非人道的、徹底的な悪、力こそが全てという独裁者である。


「ニャニャン、この件について他のプレイヤーは?」

「ランキング上位のギルドと連携は取り合っているのね。不足の事態が起きても対処できるよう三国に潜伏中にゃあ」


 水面下にて、ここまで動いていたことに驚く。

 ランキング上位のギルドといえば、基本的には高レベルプレイヤーの集まりとなっている。世界に数えるほどしかいない超越者に比べると力量差は否めないが、レベル100に近いプレイヤーだって知識と経験がある。今回の敵となるフレイムドルフ率いる兵相手ならば、特に問題なく撃破することは可能だろう。

 これならば、僕たちがやることは一つに絞られる。


「フレイムドルフは火の都サラマンの跡地、その地下に大規模な要塞を2つ構えているとの情報なのね」


 ニャニャンがマップを開き、居場所を指し示す。

 ゲーム時、フレイムドルフが力を蓄えていた場所までは公開されていなかった。フレイムドルフは宣戦布告した後――三国を即座に攻め立てるからである。三国は一気に壊滅状態に陥り支配地とされ、プレイヤーはその奪取と復活した火の都サラマンを滅ぼすべく動くのだ。

 ストーリーの通りならば、取り返しのつかないことが起きていた。

 だが、今は未然に防ぐことが可能。

 白龍の騎士が大陸龍を行動不能にできなかったように、僕たちはゲームの知識を活用して先手を取ることができる。


「三国が壊滅状態になるまで、黙って見ている意味はないのね」


 そう、ニャニャンの作戦は一つだった。


「相手が動く前に――殺りに行くよ」

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