第157庫 おかえりゴザル

 ゴザルと共に、僕たちは安らぎの満天に帰る。

 深夜も回り、あと数時間後には日も昇ってくるだろう。安らぎの満天は貸し切ってあるので、ニャニャん曰くゴザルが来ても問題ないとのことだ。

 そんなニャニャンはゴザルを僕に、颯爽と一人自分の部屋に戻っていた。

 今夜、僕とゴザルは同室になる。


「へくちゅぴっ」

「大丈夫? 温泉で身体を暖めてきたら?」

「……うぅ、全身海水でベトベトだわ。お言葉に甘えて流して来るわね」

「ゆっくりと浸かって来てよ」

「なに言ってるの? ソラも一緒に行くのよ」

「えぇっ」

「今夜のこと、ナコちゃんに言うわよ」

「ゴザル様、付いて行きます」


 今、ゴザルに逆らうことはできない。

 しかし、どうして皆――僕と一緒に入りたがるのだ? 僕の中身が男だってことは重々理解しているはずなのに。

 館内を二人歩く。

 目指す先は温泉、行く先々の造りを見てゴザルが感嘆する。

 館内は完全に旅館仕様、ゴザルも懐かしい気持ちになっているのだろう。


「うわぁ、大きな露天風呂ね」

「そうだね」


 言いながら、僕の視線は別のところにあった。

 ゴザルの髪を上げた立ち姿、普段隠れたうなじがはっきりと見えて――なんとも扇情的で魅惑的な雰囲気を感じさせる。

 コレットさんとはまた別種の美しさがそこに存在していた。

 僕がそんな目で見ていることなどいざ知らず、ゴザルが無邪気な笑顔でこちらに振り向く。


「ねえ、ソラ。あそこの岩風呂に入ってみましょうっ!」

「……」

「ソラ?」

「キレイだ」

「えっ?」

「いや、素直にゴザルがキレイだなって思ったんだ。他の人と比べるのは失礼かもしれないけれど、やっぱりゴザルは飛び抜けて美人だよね」

「な、ななっ?!」


 ふらふらと、ゴザルが後退る。


「急になにを言っ――きゃあっ」

「危ない」


 僕は背後の岩風呂に落ちかけたゴザルの手を取る。


「ちゃんと前を見ないと、足もとが滑りやすいからね」

「あ、ありがとう」

「今さらだけど、無事に帰って来てくれてよかった。おかえり――ゴザル」

「……本当に今さらすぎるのよ。でも、ただいま」


 そのまま手を繋いで先導し、ゴザルと共に入浴する。

 暗闇の中でもゴザルの銀髪は淡く輝き、水面に反射した煌めきが見るものの心を奪い去るような光景だった。

 本当に、キレイだな。

 僕がまじまじと見すぎていたせいか、ゴザルがプイッと横を向く。

 ゴザルの頬はもうのぼせてしまったのかというくらい――すでに赤かった。


「……まだまだ怒ってやろうと思って呼んだのに、怒る気が一切なくなっちゃったじゃないのよ」

「えぇっ、怒るつもりで呼んだのっ?!」

「……もういいから、私の横にいてちょうだい」


 ぶくぶくと、ゴザルが湯船に顔を隠す。

 その後機嫌は直ったものの、就寝時ゴザルの激しい寝相により無意識の粛清が行われるのだが、今日の僕は戒めとして素直に受け入れるのであった。




〜あとがき〜

次回より新章、火の都サラマン激突編になります。

最新までお読みいただいた方、いつも本当にありがとうございます(*´∀`*)!

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