第106庫 空気を読まないニャンシロ
ナコが僕の前に立ち、ハッピーを構える。
この小さい背中に何度救われてきただろう。ナコとの再会を喜びたいところだが、今はそれどころではない。
「私がお前の相手をします」
「……次から次へと、まだ仲間がいたのか」
ガラスティナの右腕はすでに再生しつつあった。
魔人という存在、どれだけの耐久力と回復力を備えているのか。やはり、残りの核を潰す以外に道はない。
「……ナコ」
「大丈夫です。任せてください」
皆まで言う前に、ナコが僕に向かって微笑む。
「ニャンシロ、クーラとお侍さんをお願い」
《 了解! 》
ニャンシロが現れ、僕を咥えて走る。
行き着いた先はゴザルの倒れている場所、ゴザルの身体からは大量の血が――流れていなかった。
刺された箇所がすでに回復しつつある。
ゴザルは深く息を吸い、深く息を吐き、ひたすらにそれだけを繰り返している。これは武者のスキル"瞑想"か、自身のダメージを継続的に回復させる効果がある。
《 鬼武者さんすごいなぁ、普通に生命活動を維持してるよ。でも、このままだと危険かもしれないね 》
「ニャンシロ、どういうことだ?」
《 状態異常が回復の邪魔をしてる。それを取り除かないと、魔力の方が先に尽きて傷口がまた開いちゃうだろうね 》
状態異常、ガラスティナの返り血か。
ゴザルの刺された箇所は心臓部、重要な臓器を突き刺されて生きていること自体が奇跡だが、再度傷口が開くということは間違いなくまずい。
触診で状態異常を――いや、これ以上の魔力消費は僕が意識を失ってしまう。
僕はアイテムボックスから魔力薬を取り出し一気飲みする。しかし、全くといっていいほど魔力が回復している実感がなかった。
枯渇状態では焼け石に水なのか?
そもそも、触診で回復できるレベルかもわからない。どうする? いや、状態異常に対して最強のアイテムがあるじゃないか。
「ニャンシロ、泣いてくれ」
《 ええー、そんな急に言われてもなぁ 》
「頼む。一刻を争うんだ」
《 じゃあ、今度我の言うこと一つ聞いてくれる? 》
「なんでも聞く」
《 約束だよ。鬼武者さんに斬られた時を思い出すかなぁ 》
ポロリ、ポロポロ。
一瞬にして泣き始めるニャンシロ――そ、そんな辛い思い出になっていたのか。今度ゴザルと改めて一緒に謝ろう。
僕は涙を瓶に詰め、自身の口に流し込む。
緊急事態、四の五の言っている場合じゃない。僕は一直線にゴザルの口に――口移しにて天使の雫を流し込んだ。
《 うゎひゃあっ! 大胆だねっ! 》
「……んっ」
ゴザルの口から声が漏れる。
一瞬目が合ったような気がしたが、僕は念には念を入れて最後の一滴まで口移しを継続する。
数秒後、ゴザルの身体がプルプルと震え出し、
「んんんーっ!」
「ぁ、やっぱり起きてた」
「そ、ソラ? な、ななな、なに、なにしてっ?」
《 キスだよ 》
僕が説明するより早く、ニャンシロが空気を読まずにそう答えた。
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