第96庫 ゴザルの想い
「そ、そろそろ、私のことも名前だけで呼んでくれない?」
その一言に僕は考え込んでしまう。
「……ゴザルさんはゴザルさんまでがセットっていうか。さん付けしないとって使命感が湧くほどの豪胆な姿だったから」
「それって全身が鎧の時の話でしょっ!」
確かに、過去の堅固な姿はもうない。
鎧という殻はなくなり、とてつもない美人が飛び出してきた状態だ。小柄で小動物的な雰囲気も加味するならば――、
「ゴザルちゃんって感じだけどな」
「ちゃん付けはやだ」
――秒で否定される。
「ゴザル」
「ひゃ、ひゃいっ」
「返事の声が裏返ってるよ」
「呼ぶ前に申告しなさいよっ!」
注文の多いお方である。
「じゃあ、もう一回呼んでちょうだい」
「改めて言うとなると気恥ずかしくなってくるんだけど」
「ほら、早く」
「ゴザル」
「うんっ!」
満足そうにゴザルが微笑む。
「ソラに直接そう呼ばれる日が来るってすごく嬉しいな」
「触診で見た時、僕に会えて嬉しいって表示されてたもんね」
「も、もうその話は忘れなさいよ。私の初めてのフレンドなんだから、約束の日だって会えるの楽しみにしてたんだからね。私、こういう性格だからもとの世界で仲の良い友達なんて一人もいなかったし」
「ぽいぽい」
「少しは否定しなさいよっ!」
「友達の件は置いとくとして、ゴザルの家族が転生している可能性はないの?」
「私ね、家族はいないの」
ゴザルさんは言う。
「気にしないで、話しの流れからそう尋ねるのは普通のことよ。暗い話になっちゃうから詳細は省くけど、私は"Nightmares"の皆が心からの友であり家族みたいなものだったの。だから、もとの世界にそこまで未練なんてないわ」
暗い話、か。
なんとなく想像は付く――家族とは絶縁、家族は亡くなっている、どちらの線もありえる話だ。
無論、その件について深く言及することはない。
仕事はいいの? なんて野暮なことも聞くまい。未練がないと言うのなら、その言葉を真っ直ぐに受け止めるべきだ。
「……私ね、ソラに会えて本当に嬉しかったのよ」
ゴザルが僕の手をそっと握る。
握り返すと安心したのか、ゴザルがゆっくりと目を閉じる。
大量のモンスターにボスの討伐、さすがに疲れが溜まっていたのだろう。
しばらくすると、小さな寝息が聞こえ始めた。
「寝顔だけ見てると、超人的な強さが嘘のように思え――ぐぼわっ」
不意の一蹴り、ベッドから弾き飛ばされる。
な、なんつー衝撃、それがゴザルの寝相の悪さだということに気が付く。
やはり、ゴザルはゴザルであった。
寝ていても――十二分に強かった。
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