第92庫 負けず嫌い
「……刀を振るものよ、話は最後まで聞けと習わなかったか」
「先に攻撃して来たのはあなた、立ち向かって来る限り私は応える。でもニャンシロの時に会話することも大事って教わったわ。だから、顔だけは残しておいたのよ」
な、なんて容赦のない一言だ。
いや、生死を賭けた戦い――モンスター相手なのだから、これくらい万全を期しても問題はないだろう。
ネクロマンサーは盛大に笑いながら、
「ふ、ふふ、ふははははっ! 面白いやつだ、お主ならば王に繋がる呪いの鎖を引き千切ってくれるやもしれんな」
「その王というのは誰のことなのかしら?」
「我らが王だ。この地に眠る誇り高き――我らが王だった。出会うことがあればどうか解き放ってやってほしい」
ネクロマンサーはそう言い残し消え去った。
その場には杖だけが残り、ゴザルさんは抜かりなくアイテムボックスに収納する。ウィンウィンに戻ったら、このイレシノンテで手に入れたアイテムは皆で山分けしようとのことだ。
ゴザルさんは刀を納め、先を見据えるよう一息つきながら、
「まだまだ大変なことが待っていそうね」
「内容がファンタジーっぽくてドキドキしない?」
「あはは。ソラ、こういう話が本当に大好きよね。ゲーム時もメインストーリーの裏話とか、裏設定とかよく話していた記憶があるわ」
ある意味、少年心をくすぐるものが僕を前に進ませる。
それでもたまに、戦闘をしている時に恐怖というものがどうしてもチラつく。幾度となく経験した命懸けの戦闘、この世界にも徐々に慣れてきたつもりではあったがゴザルさんにはほど遠い。
戦闘時の踏み込み、心構え、全てがトップクラスだ。
「ゴザルさんは戦ってる時、怖いとか思ったりしないの?」
「戦闘時に置いて恐怖という感情はすぐ死に繋がる。相手が強敵であればあるほどそれにより生じたラグが全てを崩壊させるわ」
即答。
覚悟を秘めた力強い瞳だった。想いの込もった言葉、なにやらそれは過去の自分を戒めているようにも感じる。
「私だって最初から上手くできたわけじゃない。今はゲーム脳で無理矢理上書きさせているのよ。どんなものでもいい――恐怖を上回る、自分の中にある大切な『これだ』っていうものでね」
くすりと、ゴザルさんが笑う。
「まあ、私とあなたは『これだ』っていうものが似ていると思うけれどね」
お互い負けず嫌い、そう言いたいのだろう。
「それはそうと、さっきの勝負は私の勝ちよね」
「ぐっ! 今回は素直に負けを認めるよ。僕は2体しか倒してないからね」
「ふふーん。どんなお願いを聞いてもらおうかしら」
「エロいこと以外にしてよね」
「ばっ! そ、そんなの、お願いするわけないでしょっ?!」
ゴザルさんが真っ赤な顔で反論するのであった。
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