第91庫 勝負

 数だけならば圧倒的に不利すぎる状況。

 それに臆することもなく、ゴザルさんは笑みを浮かべる。楽しんでいるようにも思えた。

 ゴザルさんは僕にパチっとアイコンタクトしながら、


「いつも通りでいいかしら」

「えぇっ、そのルール今も適用するの?!」

「もちろん。いっぱい倒した方が勝ち、敗者は勝者の命令を一つ聞くのよ」


 ゲーム時、ゴザルさんとよくやっていた勝負である。

 モンスターが大量にポップした際、撃破数を競い合っていたのだ。ジョブ性能による部分も大きいが、この勝負だけは魔法剣士時代もほとんど勝った記憶はなかった。


 ――勝負スタートっ!


 作戦なんてものはない。

 倒せる方が倒していくという力技――最早、ゴザルさんは一騎駆に近く大量の骸骨を一太刀のもとに斬り捨てる。

 兜が脱げたことによる視界良好、身体のバランス、全てが揃ったゴザルさんはそれはもう最強無敵の一言に尽きた。

 全身鎧、兜装着時ですらあの強さだったのだ。

 今それらが解き放たれている状態、このフロアにいた大量の骸骨は一瞬にして消え去った。

 ゴザルさんはビッと刀を突き付け、


「残るはあなただけよ」


 ネクロマンサー。

 ローブから覗く変わることのない表情、どっしりとした立ち姿、形容しがたい不気味さを感じさせる。

 カラカラと愉快げにネクロマンサーが歯音を鳴らしながら、


「くっくっく。強いなぁ――女たちよ」

「「喋った?!」」

「我はこのような姿になっても記憶の残滓は残っていてなぁ。まあ、この会話もその残滓を利用して話しているに過ぎんのだがな」


 形勢は逆転しているにも関わらず、余裕のある態度――、


「我がスケルトンを召喚するだけと思うなかれ。お主たちのような強きものが来るのを今か今かと待っておったのよ」


 ――ネクロマンサーが杖を僕たちに向ける。


「特に、刀を振るものよっ! その強さ頂戴する――"吸魂"!」


 赤い光がゴザルさんを包み込んだ。

 速効性のあるスキルか? こういったスキルは発動が早いため、基本的に避けることが難しい。代表的なスキルで"魅惑"や"操り"など存在するが"吸魂"は聞いたことのないスキルだった。

 スカル・キラーのデスクロックのように、ボスクラスの強敵だけが持つオリジナルスキルだろう。


「これは対象の魂を吸い取り、我が力とするスキルだ! お主の力は我のもの、我のものよっ! 吸い取られた対象は抜け殻に――ぬふんっ?!」


 ネクロマンサーが素っ頓狂な声を上げる。

 急に杖を地面に落とし、拾い上げようとするが持ち上がらない。当の本人のゴザルさんは平然とした顔付きで立っている。


「な、なんだこやつ、化け物か? 魂が重すぎて吸い取れぬだと?!」

「ニャンシロみたいなこと言うんじゃないわよっ! 揃いも揃って私のこと化け物扱いしすぎでしょ?!」

「この類まれな魂、王に匹敵するか? お主ならば我らの悲願を打ち払うことができるのか?! まさか、まさか」

「雷の刃――雷雨!」


 有無を言わさぬ怒涛の突きの嵐。

 なんか重要そうな話の途中でゴザルさんがとどめを刺した。

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