第84庫 シルクな触り心地

《 猫の少女よ、泣けばよいのだな 》


「うん。白虎さん、お願いできる?」


《 無論、先ほどの戦闘を思い返せば一瞬であろう。そこの鬼武者よ、いくらなんでも我が可哀想だと思わなかったのか 》


 ポロポロと白虎が泣き始める。

 胸が締め付けられる光景だ、ゴザルさんなんて酷いことをしたの? 僕は無言でゴザルさんの方を見やる。


「鬼武者ってなによ! わ、私が悪者みたいじゃない」


《 悪者であろう。我の寝床に無断で入って来て急に斬り付けてくる。これ以上の悪行があると申すか? 》


「正論すぎる。ゴザルさん謝る以外の道がないよ」

「も、モンスターに諭される日が来るとは思ってもみなかったわ。白虎、あなたの言う通りよ――ごめんなさい」


 素直に謝るゴザルさん。


「お侍さん、涙がもらえました」


 ナコが白虎の涙をゴザルさんに手渡す。


「……キレイな虹色。ありがとう、白虎」


《 容易いこと、お主が怖すぎて秒で泣けたぞ 》


「意外と攻めてくるわね。本当に悪かったわよ」


 兎にも角にも目的は達成した。

 あとは帰還用転移陣に乗ってウィンウィンに戻るだけだ。

 道のりの長い上級ダンジョンには親切設計として基本的に設置されてある。

 このイレシノンテも例外ではない。


「ふむふむ、ふーむ」


 キャロルさんが白虎のいる間を探索している。

 探索が終了するまではもう少しかかりそうだ。その間、せっかくなので僕とゴザルさんも白虎の毛を触らせてもらう。

 かなりの毛量があるらしく、腕の関節くらいまで入り込む。

 な、なにこれ気持ちいい――ゴワゴワした毛をイメージしていたのに、なめらかでシルクを触っているかのような肌触りだ。


「質感がサラサラすぎるっ!」

「サラサラだわっ!」


 同じ感想だった。


《 ふっ、お主が斬り刻んだせいで毛が禿げてしまった部分もあるがな 》


「しつこいわね! そろそろ許しなさいよっ!!」


 そんなやり取りの中、


「白虎さんはこれからどうするの?」


 ナコが尋ねる。


《 傷が癒えるまで身体を休める、侵入者が来たらば戦うという繰り返しだ。我の存在とはそういうものよ 》


「なんだかそれは寂しい気がする。私たちと一緒に来てくれないかな?」


 ナコがとんでもないことを言い出した。

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