第83庫 白虎攻略戦 後編

「私がフルボッコにしてあげるっ! 泣き叫んで涙流しまくりなさいっ!!」

 


 暴走機関車と言わんばかりの特攻に白虎が怯んでいるのがわかった。

 鋭利な爪の攻撃でゴザルさんを迎え撃とうとするが――遅い。ゴザルさんは命のやり取りが介在する隙間を神業のごとくすり抜けて行った。


 心臓に毛でも生えているのか?

 当たれば致命傷となる一撃、いや――当たらないと判断したからこそ、ゴザルさんは今の選択肢を取ったのだろう。


 その刹那の攻防により全てが決した。

 どちらが上でどちらが下なのか、圧倒的なまでの理解を押し付けている。ゴザルさんは懐に潜り込み――連撃を繰り出した。


「泣け泣け泣け泣け、私の前で泣きなさいっ!」


《 ひぃん 》


 もうすでに泣いている気がする。

 ゴザルさんの猛攻に、白虎の毛が少しずつ朱に染まっていく――当然か、生物を相手にしているのだから。

 想像を遥かに超える一方的な蹂躙だった。


雷の刃らいのじん――紫雷しらいっ!」


 麻痺を帯びた一撃に白虎が崩れ落ちる。

 最早、手下が召喚される間もなく――ゴザルさんは硬直状態の間にとどめを刺すつもりなのだろう。

 ゴザルさんが居合の構えを取る。


「終わりよっ! 白虎っ!!」

「殺しちゃ駄目ですっ!」


 ナコだけが冷静に状況を見ていた。

 その制止の声にゴザルさんが後方に飛ぶ。あと一歩遅かったら本末転倒、涙を得るどころの騒ぎじゃなくなっていた。


「涙がもらえません」


 それに、とナコが倒れる白虎に歩み寄る。


「言葉が通じるのであれば、話し合いはできませんか?」


《 猫の少女よ、我を助けようというのか 》


 確かに、ナコの言う通りだった。

 モンスターは倒す――そういった固定概念がどこかにあった。涙を取ったあとも、討伐するのが当たり前と思っていた。


 知性がある相手なのだから、そういった選択肢もあり得たのだ。


 ナコだからこその発想。

 今日僕たちの意識はまた新たにバージョンアップされたことだろう。


「もうこの子に戦う意思は感じません。ごめんね白虎さん、痛かったよね。私たちも理由があったんだ」


 その優しさに応じるよう、心を許すかのよう、白虎がナコの手に頬擦りをした。

 僕とゴザルさんは信じられない光景に言葉を失う。

 キャロルさんが感心するよう大きく息を吐きながら、


「なんだか、現実になったからこその隠し要素を見ている気がするのです。こういった友好的な方法もあるのですね」

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