第65庫 一直線の攻防
僕は脱出までの作戦を説明する。
「レイナさんはサークルドレインに備えて皆に"魔壁"を重ねがけ、詠唱中は隙が生まれやすいからサマロはレイナさんを全力で守ってほしい」
魔壁とは、属性攻撃に対してある程度の耐性を付与する魔法だ。
5体分、全てのサークルドレインを受けてしまってはどうにもならない。
二人にはサポートに徹してもらう。
あとは作戦の要として――どうしても頼り切るしかない、また無理をさせてしまうことになる。
「ナコ、もう少しだけ頑張ってもらってもいいかな?」
「問題ありません。まだまだ元気ですっ!」
気合い十分と言わんばかり、ナコが威勢よく拳を上げる。
「ネームドの性質上、第二層に逃げ切ることができれば――どうにかなるはずだと信じるしかない。火竜玉を使ってやつらの真ん中を突っ切る」
ただ、普通には使わない。
「火竜玉一個でスカル・キラー殲滅は不可能だ。これは脱出までの加速装置として役割を担ってもらう」
耐性の高い僕が機動力側に立ち、ナコが先頭で矛として立ってもらう。
サマロとレイナさんは中間でサポート、ロケットみたいなものだ。突貫に等しいが瞬間加速さえあれば問題ない。
第二層までの道を一直線に貫くことができれば――それでいい。
「……火竜玉、一発逆転の案だと思うわ。でも、着地はどうするの?」
「ん? 着地とかいるのか?」
「脳筋馬鹿サマロ、いるに決まってるでしょ? このままだと、第三層を抜けたはいいけれど――壁にぶち当たった衝撃で最悪死ぬわよ」
レイナさんの疑問は最もである。
「大丈夫、とはハッキリ言えない。一か八かになるけどブレーキはかけるよ」
「全然いいわよ、なにもしないまま死ぬよりいいわ。あのクソ骨モンスターに一泡吹かせてやりましょう」
皆の覚悟は決まった。
「クーラ、スカル・キラーが来ます」
「よし、行こうっ!」
僕は火竜玉を触手で握り潰す。
――爆炎。
触手の中で火柱が巻き起こり、僕たちは一気に加速した。
ナコがハッピーを前方にスカル・キラーの中心を突き進んで行く。触手と耐性装備に感謝、この二つがなかったら最初に僕が燃え尽きていただろう。
――1体、2体、3体、4体、突っ切れるっ!
第二層は目の前、ナコが岩壁にぶち当たる直前――僕は衝撃を緩和するべくバフを発動させる。
「瞬間バリアっ!」
ナコの前にバリアを展開する。
緑蟹で偶然得たバフ、数秒しか張ることはできないがないよりは遥かにマシだ。僕は立て続けに瞬間バリアのストックを重ねがけしていく。
ナコもナコで衝撃を抑えるべく黒い波動を放った。
「暗波っ!」
オーラ・ストーン全体が揺れるほどの衝撃音が鳴り響く。
なんとか、届いた――ナコ、サマロ、レイナさんが第二層に入る。
一か八かの賭けには勝った、スカル・キラーが追いかけてくる様子はない。
だが、衝撃は生半可ではなかった。
衝突を無理やり抑え込んだ形、全てを緩和することはできない。
最後尾にいた僕だけがあと一歩のところで第三層に投げ出される。
――その一瞬の隙、スカル・キラーの一体が地面ごと僕の足にサーベルを突き刺した。
強制的な縛り、動くことができない。
ギリギリのところで僕だけが取り残されてしまう。不運? いや、狙いすましたような立ち位置――なんとも性格の悪いモンスターだ。こうなることも見越し、一人だけでも捕獲できるよう構えていたのかもしれない。
あと一歩、あと一歩という距離が――命運をわけた。
ブレーキを何重にもかけたとはいえ、先頭にいたナコのダメージは計り知れないものだったろう。
意識があることすら奇跡に近い――頭から流れ落ちる血、ふらつく足取りで僕のもとに歩み寄って来る。
駄目だ、ナコ――道連れになるだけだ。
「……クーラ、クーラっ」
「待て、黒猫! そんな状態で行っても死ぬだけだっ!」
サマロが冷静に制止する。
「離せ、離せ、離せ、離せ離せ離せ離せ離せっ! 私は、まだ戦える! クーラのところに行くっ! クーラを助けに行くんだっ!!」
ナコが必死に手を伸ばす。
無論、届く距離ではないが――ナコの想いを感じた。
だが、この世界は無情にもその絆すら切り離していく。
無茶をした代償、衝撃による崩落。
第三層と第二層の連絡通路が完全に塞がれた。
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