第64庫 全てを賭けた脱出
スカル・キラー、特殊な条件で湧くネームドの一種。
ゲーム時は第三層の決まったエリア内で死亡するという、字面だけならば最低最悪の条件がスカル・キラーを出現させるために必須だった。
この特殊な条件を見つけたのは僕とニャニャンが最初だったりする。ハイスパイダー初見殺しの罠にかかり、その場で倒れたまま雑談していたのだ。
――すると、スカル・キラーが出現した。
魂を捧げることが条件、後にオンリー・テイル運営の公式発表にて発覚した。
スカル・キラーの他、特殊な条件で湧くネームドは大量にいるとの情報開示もあり、プレイヤーは大いに盛り上がった。
どうやって出現させるかというのは、ゲーム掲示板の話題の一つともなっていたほどだ。
今この場には冒険者の死体が数多、確かに条件は出揃っている。
しかし、プレイヤーが何度も検証を重ねた結果、スカル・キラーが出現する確率は魂を捧げた際の2〜3パーセントであると発覚したのだ。
一体だけならギリギリわかる。
数パーセントがここまで連鎖するわけがない。天文学的な数値、イレギュラーの範疇を大幅に凌駕している。
僕も知らない、まだ出回っていない出現条件でもあったのか? 誰かが故意に沸かせたという可能性も? 仮にそうだとしてそれを僕たちにする理由はなんだ?
「……おいおい。どうなっていやがる? 悪夢でも見ているのか? いや、こりゃもう覚悟を決めなきゃならねえのか」
眼前に広がる圧倒的な絶望に、サマロが震え声で呟く。
「……ナコ、全部で何体いる?」
「隠れているものはいません。確認できている5体が全てです」
最早、どうにかなるという次元を超えている。
スカル・キラーがゆっくりとこちらに歩み寄って来る。勝敗が決したことを理解しているかのごとく、追い詰めた獲物をどう狩ろうか楽しんでいるかのごとく――カラカラとした歯音が第三層に反響した。
例え死ぬことが百に近い状況でも、諦めるわけにはいかない。
「ナコ、最後まで付き合ってくれるかな」
「はい。私はクーラと共に行きます」
ナコ一人の力なら、逃げ切ることも可能だろう。
だが、僕は――共にいることを望んだ。
ナコは絶対に逃げないと思ったからだ。今できる最善の選択は一つしかない。
「サマロ、僕とナコがスカル・キラーを引き付けている間に――なんとかレイナさんを連れて逃げてくれないか」
僕の提案にサマロが目を見開きながら、
「……クーラさん、本気で言ってるのか?」
「正直、三人で足掻いたところで耐える時間が多少延びるくらいだ。それだったら、僕とナコが全力で道を切り開く方が遥かに希望がある」
「二人を置いて行けっていうのか?! 冒険所でもバカにしただけの、いやな野郎だけで終われっていうのか!?」
「まだ僕たちが死ぬと確定したわけじゃないよ」
「ほとんど確定事項に近いじゃないか! 俺は、俺はっ?!」
「……駄目よ、サマロ」
その時、サマロの背中から声がかかる。
「私たちも戦いましょう」
「……レイナ、気が付いたのか」
「できることは限られてるかもしれない。でも、助けに来てくれた人を犠牲にして自分たちだけ生き残るってのは――違うわ」
凛とした声でレイナさんは言う。
「ここで逃げたら、サマロ――あなたは冒険者として終わってしまう。今日という日は色々な意味で必ずなにかの形として残るわ。今一つだけわかること、全てを捨てた人間に未来なんてない」
レイナさんがサマロから下り立ち、
「私も魔力は多少回復している。3人じゃなくて4人だったらどうかしら」
「……尻叩いてくれてありがとうよ。クーラさん、黒猫、俺たちも戦力に加えてくれ。なにがあろうと後悔はしない」
決断しろ、悩んでいる暇はない。
前衛✕3人、後衛✕1人――導き出せ、知識を総動員させろ、皆の想いを無駄にしてはいけない。
……倒すことは考えるな。
現状の手札でどうしたら第三層を抜けられるか――そこだけに終始するんだ。
第二層に繋がる通路は目前、もしゲーム通りであるならばネームドの類は出現エリア外にでてくることはない。
険しい表情をしていたのだろう、ナコが心配そうに僕の顔を覗き込み、
「……クーラ?」
「大丈夫だよ、僕に任せて――絶対に4人で生き残ってみせる」
今、全てを賭した脱出劇が始まる。
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