第39庫 休暇 その1

 ギルドとホームの手続きも終わり、僕とナコの新しい生活が始まった。


「クーラ、お金を使いすぎです」


 ナコが頬を膨らませながら言う。

 うーむ、ナコのためにという気持ちを伝えても押し付けがましいし、どう話せばいいものか。

 僕は今の感情を素直に言葉にしてみる。


「これからはなるべく節制するから許してほしい。僕は誰にも邪魔されずにナコと二人で住めて嬉しいよ」

「……えっ? わ、私と二人、嬉しい、ですか?」


 僕は力強く頷き返す。

 昨夜、宿屋の隣室が激しくうるさかったからなぁ。なにがうるさいかって、ナコの教育的に早すぎるから勘弁してよというレベルである。ナコはもう寝ていたはずだからイヤンな声は聞こえていないと思うけれど。


 本日より、僕たちはホームを拠点に活動していくことになる。


 一括というパワーワードが効いたのか、オプションで追加した鍛錬場は優先的に完成させてくれるとのことだった。

 ホーム自体はすぐに移住可能なので、僕たちは早速リビングにてギルド初の作戦会議を開く。

 題材は今後のことについて、僕は真剣に協議する。


「ナコ、一週間ほど休暇を取ろうか」

「お休みですか?」

「ああ。正直、疲れた」

「クーラ、王都には急がなくても?」

「めっちゃ疲れた」

「休みましょう」

「ちょっとくらい遊んでもいい?」

「遊びましょう」

「お酒飲んでもいい?」

「酔い潰れない程度なら」

「なんか身体が重くって」

「肩をトントンしてあげます」


 優しさが染みるぅっ!

 僕は本音を包み隠さず伝える。一先ず王都の件は保留、すぐにどうこうできる範囲ではないので――心身共に回復させてから取り組む方がよいと判断した。


 決して休みたいわけでは――ある。


 休みたい、いやもう休ませて、僕はリビングのソファーで項垂れる。

 こんな予測不可能な方面から一国一城の主とか人生急展開マジ卍。

 だらけ切った僕の背中、ナコが肩を叩いてくれる。


「トントン。お客様、力加減はいかがですか?」

「あはは、マッサージ屋さんの真似かな。もう少し強くても大丈夫だよ」

「変身します」

「んっ?」

「トントン、トントン。お客様、力加減はいかがですか?」

「効くぅっ!」


 骨が砕けちゃう~。

 パワーを上昇させるため魔法少女になってくれたのだろうが、一回叩くごとにメキメキと僕の身体が悲鳴を上げる。


 ナコは魔法少女になった際、力の加減が上手くできていない。


 鍛錬場を設けたのもこれが一つの理由だったりする。モンスター相手に殺すこと前提であれば問題ないが、いつか必ず力を抑えなければならない場面は来る。

 ナコが破壊神になる前に、力の使い方を覚えてもらおう。


「ありがとう、もう満足だよ。そろそろ買い物にでも行こうか」

「お買い物ですか?」

「休暇を取るならとことん満喫しないとね。ウィンウィンの観光も中途半端だったし色々見て回ってみようか」

「はいっ!」


 ナコが嬉しそうに返事する。

 高揚する気持ちはわかる、買い物って楽しいよね。特に見知らぬ土地だとなにがあるのかワクワクしながら散策できる。

 とりあえず、ホームには生活に必要な家具は一通り揃っている。

 あとは日用品と食材くらいかな。その買い出しが終わったら、ナコと一緒に行きたい店がある。


「ホームの鍵はかけた?」

「ふふ。ガチャって鳴りました」


 休暇初日。

 僕たちは仲良くウィンウィンのマーケット街へと足を運ぶのだった。

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