第40庫 休暇 その2
「クーラ、この服どうですか?」
「可愛い」
「こっちはどうですか?」
「可愛い」
「これは?」
「もう全部可愛い」
ナコのファッションショーである。
昨日、日用品の買い物が終わってから洋服店に向かった。
ミミさんやリーナも気にしていたことだが、ナコは普段着を一着しか持っていない。
ゲームであれば、強い装備さえあれば無問題だろう。
しかし、今はもう違う――普段着は何着あってもいい。現実となんら変わりないのである。最強装備が一式あればいいじゃん、というわけにはいかないのだ。
洋服店を何軒か巡り、ナコの気に入った服をいくつか購入した。
ナコの嬉しそうな顔を見て、もっと早くに気付いていたらと後悔した。いやまあここまでの道中、買い物する余裕なんて皆無だったけどね。
だからこそ、長期滞在予定のウィンウィンでは日常だけでも、もとの世界に近付けたいと思った。
洋服店で購入する際、ナコはかなり渋っていたのだが、
「ほら、この服なんて可愛くてすっごく似合うと思うよ」
「クーラの気持ちは嬉しいのですが、散財は禁止と言ったはずです」
「違うよ。これは散財には入らない」
「お洋服一着、10万エドルと表記があるのですが」
「リーナのオススメ通り、耐性付きがメインだからね。一般的な服よりはちょっとだけ高めになっちゃうんだよ」
「私のお小遣い10年ぶんですよ」
「ギルド登録料は100年分、ホーム購入は10000年分、この二つに比べたら10年分は優しい範疇じゃないかな?」
「??? 頭がパニックになってきました」
「ほらほら。試着もできるみたいだし何着か持って行ってきなよ」
「はい、行ってきますっ!」
ナコの頭がグルグルしているのを機に、僕は間髪入れずにゴリ押しした。
お会計後、正気に戻ったナコに怒られたが後悔はしていない。
これからもナコと上手い具合に相談しつつ必要だと感じるものは取り揃えていこう。
――そして、現在に至る。
僕も部屋着を何着かピックアップ。
ホーム以外ではいつもの装備、性能重視のままを心がけるつもりだ。ただここまでの旅路で破損箇所が目立っていたので、あるアイテムを大量に購入した。
アイテムの名は『リペアストーン』、装備を初期状態まで修復してくれるという優れものだ。初期状態ということは修復=清潔さも兼ね備えているため、今後の旅の必需品になるだろう。
戦闘時に身に付ける装備は、モンスターの素材を用いているものが大半だ。
リペアストーンはモンスターの強い生存本能を刺激するもので、素材となったあともそうした自然治癒能力を活性化させるものだという。
だからこそ、装備が修復されるのだという裏設定があったようななかったような。
着る服が決定したのか、ナコが鏡の前でくるりと回る。
ミミさんにもらった服とは真逆の白いワンピース、ナコはどんな色でも似合うなぁと無意識に頬が緩んでしまう。
ナコが僕の前まで小走りで駆け寄り、
「ふふ。クーラ、どこかお出かけしませんか?」
「そうだね。今日は外食にしようか」
新しい服でお出かけ、年相応の可愛らしい要望だ。
僕は修復した装備を身に付け、予期せぬ事態が起きてもいいよう万全を期しておく。
ナコは瞬時に魔法少女に切り替え可能なため、どんな服装でも問題ないだろう。
僕たちは馴染みと化してきたマーケット街へと出向くのであった。
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