第38庫 マイホーム

 ギルドの拠点地――ホーム。

 ギルドを結成したからにはいずれ必要となる設備、購入の理由はそれだけではないのだが、とにかく早く手にするに越したことはないと考えていた。


 ホームの売買も冒険所が請け負っているためトントン拍子に話は進み、つい先ほどギルド登録をしてくれた受付嬢の方が案内をしてくれた。


「登録完了後、担当はそのまま私ということになりました。紹介が遅れて申しわけありません、ユーリと言います。今後ともよろしくお願いいたしますね」


 ユーリさん曰く、ギルドごとに担当が決まるという。

 今後なにかあるならば、基本的にはユーリさんに相談すればいいようだ。

 僕とナコも改めて自己紹介、ユーリさんの後ろに続いてホームを内見していく。


「ギルドを登録してから、すぐにホームを探す方は珍しいですよ」


 ユーリさんが言う。


「拠点地となるホーム購入は冒険者として一つの夢ですからね。率直に言いますとランクを上げながらエドルを貯めていくのが一般的でして」


 ユーリさんが言いたいことはわかる。

 冷やかしと思われているのだろう、まだ内見するのは時期尚早なのではないかと遠回しに言っているわけだ。


「ここら辺のホームはいかがでしょう? お部屋は全部で6室あり、クーラ様が『C』ランクに上がるころには問題ない価格だと思います。お値段の方は大体2000~3000万エドルですね」


 洋風二階建ての住居を紹介される。

 普通に拠点として使用するぶんには問題ないだろうが、僕の求めているものはもっと上にあった。

 倉庫だからこその利点、僕には運良く資金力がある。

 ファーポッシ村からずっと思っていたこと、確保しておきたい場所があったのだ。


「すいません、お風呂付きのところありますか?」

「……えっと、お風呂付きですと軽く5000万エドルを超えてきますよ?」


 やはり、か。

 昨夜の宿屋の一室から察するに、お風呂は上級国民の設備だと予想はしていた。水が豊富なアクアニアスとは違い、地域的なものもあるだろう。

 しばらくの間、いやかなりの間――『必須事項』を達成するため、ウィンウィンには長期滞在することが予想される。


 その期間、手を抜くようなことはしたくない。


 心と身体を癒やすホーム、ナコにはきちんとした環境を整えてあげたいのだ。

 よし、こちらから提案してみるか。


「ユーリさんには素直に言います。資金にはかなり余裕がありますので、価格を気にせず最高だと思うホームを教えてください。お風呂にだけはこだわりたいんです」

「わ、わかりました」


 冒険者が購入することのできるホームは決められた区画内にある。

 山を切り開いたような構造で全て冒険所が管理しており、上段に行けば行くほど土地もホームも広大に、一等地として定められていた。

 そして、ユーリさんが連れて来てくれた場所は一番上だった。


「クーラ様のご要望通り、こちらはいかがでしょう? ホーム自体の大きさは先ほどの二階建てと大差ないのですが、その分設備が重視されています。生活に必要な家具、不法侵入者用の魔力感知セキュリティ、室内風呂に露天風呂付きとなってまして、私が今まで見て来たホームでここ以上にこだわったところはありません」

「ありがとうございます。お値段の方は」

「8000万エドルです」

「じゃあ一括で」


 ――「「……っっっ?!」」


 その僕の一言に、ユーリさんだけでなくナコも飛び上がる。

 ユーリさんが自信を持って勧めるだけあって一目で気に入った。

 室内風呂もキレイで大きく、露天風呂も設置されているだけあって庭も広大だ。

 よほど驚いたのか、ユーリさんは案内用の書類を落としながら、


「い、いい、一括って? 本気ですか?」

「あと庭も広いですし鍛錬場をオプションで付けてください」

「ええぇっ?! 鍛錬場? 鍛錬場もですか?! えぇーと、周囲に影響がないようバリア素材を張りまして、ホームの価格と合わせ合計1億エドルとなりますが」

「一括で」

「うわはーっ! ヤバい、私の営業ボーナス爆上げしちゃうっ!!」


 ユーリさんが私欲全開に絶叫した。

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