第37庫 冒険所カード
この日、ギルド"Kingly"が発足した。
僕とナコは受付を離れ、近くにある休憩所へと移動する。
冒険所は飲食店も併設されているため、僕たちはそこで一服することに――ナコには一度、先ほどのお金の件については忘れてもらおう。
テーブルにつき、僕はコーヒーにナコはジュースを注文する。
「私たちの新たな旅立ちですね」
「僕たちのギルド、賑やかになっていくと嬉しいなぁ」
「……しばらくの間、私は二人のままでもいいですよ。二人っきりの始まり、新婚さんごにょごにょ」
「え、なんて?」
屈強そうな盾職が真横を通り、鎧の擦れる音でよく聞こえなかった。
「なんでもないです。ところで、この冒険所カードってなんですか?」
「これは個人カードみたいなものだね。今の冒険所ランクがどれくらいなのか、どこのギルドに所属しているかってのが明確に記載されているんだ」
「??? 特になにも書いてませんよ?」
ナコが不思議そうにカードの裏表を見つめる。
「僕も実物として見るのはさすがに初めてだけど、形状から察するに――カードの真ん中にある宝石に『魔力』を通すっぽいかな」
「魔力を通す、ですか? 具体的にどうすればいいんでしょう?」
「オンリー・テイルの世界設定の話になるんだけど、基本的にこの世界にいる人は皆等しく魔力を身に宿していてね。僕たちが度々使用しているスキル、これを発動するためには魔力が必須になるんだよ」
僕の説明にナコが静かに頷き返す。
僕もナコも命懸けの戦闘に一心不乱になって自然とスキルを発動していた節がある。魔力を意識して形にするのはお互い初めての試みだろう。
今後の旅路にさらなる強敵が待っているとしたら、こういった繊細な部分も研鑽していくに越したことはない。
「結論だけ言っちゃうとナコの場合は魔装デバイスをオン、魔法少女になる感覚をカードに向けたら魔力は通るんじゃないかな」
僕は触手を展開するイメージをカードに向けて実践してみる。
指先から暖かいなにかが伝わっていくのを感じ、その感覚に呼応して僕の持つカードの表面に――色々な情報が浮き上がってくる。
《ギルド名》 Kingly
《ネーム》 Kura
《ジョブ》 触術師(レベル12)
《冒険所ランク》 Fランク
基本的には、ステータス表示とそこまでの差はない。
ギルド、ジョブ、現在のレベル、ランク、顔写真――しかし、この世界に置いて大事なアイテムの一つには違いない。
冒険所に所属する冒険者として、自分の立ち位置がどこら辺であるか一目で判別がつくのだ。
そして、高ランクほどありとあらゆるものが優遇される。僕の求める『必須事項』もそこに関わっていた。
ナコも魔力を通せたようで、楽しそうにカードを眺めながら、
「クーラ、見てください。私の顔が浮かび上がってます」
「あはは、上手くいってよかっ――」
《ギルド名》 Kingly
《ネーム》 Naco
《ジョブ》 魔法少女(レベル36)
《冒険所ランク》 Fランク
「――さ、、さんじゅ、ろ、く?」
「クーラ、身体が震えていますよ」
最早ナニコレぇっ!
経験値はとどめを刺した人物に入るから、要塞型ゴーレムの討伐判定はナコになったのだろう。
こ、これからは常にナコさんとお呼びするべきか?
いつの間にかの3倍差、対抗心など消し飛んだ。一周回っていっそ清々しい、仲間が成長していくのは素直に喜ぼう。
僕はコーヒーを飲んで一息、一拍置きながら、
「ナコさん。この後、付き合ってもらいたい場所があるんだけど――いいですか?」
「ひそひそ声でどうしました? どこでもお供しますよ」
つい先ほど、お金の一件があったから少し切り出しづらい。
出費は抑えろと怒られないか心配ではあるが、こっそり買って隠し通せるような代物でもない。
僕は素直に打ち明けることにする。
「実はさ、ホームを買いたいんだ」
「ホーム、お家ですね――ぃぇ? お家っ?!」
「その下見を一緒に来てくれたら嬉しいな」
「シンキョ探しっ?!」
ナコが早口でなにかを叫びながら、椅子ごと後ろにぶっ倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます