第36庫 エドルの価値

 僕たちはウィンウィンにある冒険所ぼうけんじょに足を運ぶ。

 冒険所とは様々なクエストを受註したり、クエストをこなすことで日々の金銭を稼ぐことのできる――冒険者にとっての生命線、腕に自身のあるものが活動を主とする場、集会所みたいなものだ。


 冒険所は王都に渡るための『必須事項』が存在する場所であり、どちらにせよ訪れる予定ではあったのだが――今一番の最たる目的は別のものとなっていた。

 受付嬢が書類を手に、記入漏れがないかを確認する。


「それでは、新しいギルド"Kinglyキングリー"の申請を受理しました。個人ではなくギルドとして冒険所に登録された場合、なにか不祥事があった際はギルド全体の連帯責任となります。質問等なければこちらに了承のサインと、冒険所への登録料100万エドルいただきます」


 僕はサインを記し、登録料を受付嬢にわたす。


「クーラ、100万エドルって価値としてはどれくらいなんですか?」

「こっちの物価を見た限り、日本の通貨単位と大差ないかな」

「私、月のお小遣い千円だったんですが」


 ナコが遠い眼差しで虚空を見つめながら、


「千円ってすごいんですよ? 流行りの少女漫画も買えますし、好きなお菓子だっていっぱい食べちゃえます。私のお小遣い約100年分ですよ? クーラ、登録するの考え直しましょう」

「急にリアルな顔してどうしたの?! 大丈夫、これくらいの出費なら問題ないよ。僕も覚悟を決めてギルドを結成したんだから必要経費だって」

「そうですか。ちなみに、私っていくらで買ったんですか? いえ、私を助けるためにいくら使ったんですか?」

「えぇっ、それは、別に聞かなくても」

「隠さないでください。全て知りたくなりました」

「よ、4000万だったかな」


 ナコが金額を聞いた瞬間、その場にぶっ倒れた。


「4000万? 私が、4000万??」

「な、ナコさんっ?! カムバックっ!」

「あのー、盛り上がっているところ横から大変失礼します。全ての手続きが完了しましたので、最後に冒険所カードを発行してお渡ししますね」


 ギルド名の由来は、この世界だからこそ堂々と生きていく。

 各々が自由に逞しくという意味合いを込めた名前にした。


 上下などなく皆平等に、家族だと言えるように。


 現状は僕とナコ、個性の強いユニーク職のみの編成だからこそ――ある意味マッチしている気はする。

 受付嬢が僕たちに銅製のカードを手渡し、


「"Kingly"様、冒険所ランクは『F』からスタートとなっております。ランクに応じたクエストを規定回数、または緊急高難易度のクエストをクリアすることによって、ランクは上がっていきます。今後の躍進に期待しておりますね」


 こうして――今はまだ二人だが、僕とナコのギルドが発足したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る