氷迷宮の迷い子編
第22庫 氷迷宮ホワイト・ホワイト
「クーラ、寒くありませんか?」
「それが全然寒くないんだ」
「水着ですよね?」
「水着だね」
「クーラって中身男ですよね?」
「えっ! 今それ言っちゃうの?!」
現在、僕たちは氷迷宮『ホワイト・ホワイト』に来ていた。
氷と雪のみで形成された空間、ウィンディア・ウィンドまでショートカットができるダンジョンである。
息を吐けばふわりと白く、氷上には自身の姿が映し出されていた。
「僕の全身装備、全属性に対して高い耐性を持っているんだ。性能が第一なのはもちろん、僕も今の装備に少しずつ愛着が湧いてきたというかなんというか」
「その格好の謎が解けました」
「うんうん。可愛い装備だよね」
「クーラって中身男ですよね?」
「二度言われても気にしない精神! 男でも可愛いものは可愛いっ!」
僕は腕を組みながら堂々と言う。
「そういうものなのですか」
「ナコだって可愛いよ」
「えっ? えへへっ?」
「学校でモテたりしなかった?」
「……いえ、男子とはあまり仲良くなかったです。イタズラばかりしてくるアダム君やジャスミン君とはよく喧嘩になっていました」
名前が近代的ぃっ!
イタズラばかりって――ナコの年頃にはよくある、好きな子ほどいじめたくなるではないだろうか。
「同世代に好きな子とかいなかったの?」
「いませんでした。特にイタズラしてくる子なんて大大大嫌いです。私のスカートを捲ってなにが楽しいのでしょう。下着の色を見て占いでもしてます?」
た、淡白ぅっ!
ナコって大人のような子供のような、コロコロと変わる一面がありなんとも不思議な印象を与えてくれる。
ナコはきょろときょろと辺りを見回しながら、
「話は変わりますが、このダンジョンに危険なモンスターはいないのですか?」
「大丈夫だよ。ここはゴーレムしかいないから」
「ゴーレム、ですか?」
「簡単に言えば、石の人形かな」
ゴーレムとは人工生命体だ。
大きさ数メートルほどでゴツゴツとした石のフォルムで形成されており、こちらから攻撃しない限りは安全――基本的に同じ場所を延々と歩き続ける習性を持っている。
うろ覚えだが、氷迷宮に住んでいた錬金術師がセキュリティのために錬成したというエピソードがあったようななかったような。
僕がそう説明するとナコは目を輝かせ、
「ゴーレム、見てみたいです」
「進んでいったら何体か出会えるはずだよ」
言ってる間に通路を曲がったところ、一体のゴーレムが現れた。
ドスン、ドスン、と大きな足音を立てながら僕たちの方へと近付いて来る。
例のガルフの一件もあるため、なにか変化がないか少し警戒はしていたが問題ない。決められたルートをきっちりと歩いていた。
ナコはマジマジとゴーレムを見上げながら、
「……大きい。胸の隙間から漏れている赤い光はなんですか?」
「あれは
「クーラ、本当に詳しいですね」
「このダンジョン、ゲーム始めたてのころにお金稼ぎでよく来てたから」
「お金、稼ぎですか?」
「このゴーレムの魔核、高値で売れたんだ」
あくまで初期のころだけだ。
その後はもっといい稼ぎ場所がどんどんでてきたので、現在は廃れた迷宮といっても過言ではない。
僕たちのように特殊な条件下でなければ、このダンジョンに潜る人はいないだろう。
「手をださない限り害はないのに、お金が絡むと難しいですね」
「うん、まあ、確かに」
発想が哲学的ぃっ!
無論、今は倒すことなど考えず――僕たちはゴーレムの横を素通りし、ダンジョンの奥へと進んで行く。
マップを開き、現在地を確認する。
すでに氷の迷宮の五分の一くらいは踏破している。このペースであれば二、三日ほどでダンジョンを抜けることができそうだ。
それから、さらに何体かのゴーレムを素通りし――広間へとたどり着いた。ここはパーティで来る際、キャンプ地に使用されていた場所である。
賑わっていたころが懐かしい、今ではガランとした空間だ。
「今日はここで休んでいこうか」
「はい」
しかしながら、周囲は雪と氷だらけ。
ピコンと、状況的に閃いたことは一つだった。
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