第23庫 それぞれの想い
かまくらを作ろう。
ナコも僕の思惑に気付いたようで楽しそうに雪を一箇所に集め始める。
「ふふ。雪ってテンション上がっちゃいますよね」
「その気持ちわかる。そういや手とか冷たくない?」
「魔装デバイスをONにしていると、あまり暑さも寒さも感じません」
「魔法少女になると色んな面が強化されるのかもしれないね」
「まさに魔法少女です」
なにがまさにかは不明だが、ナコが嬉しそうなので僕も笑顔で頷き返す。
ナコのイメージする魔法少女とは一体なんなのか。小さいころ妹と一緒に魔法少女的なアニメを見た記憶はあるがこんなパワータイプだったっけ。
もっとキラプリしていたような――本人が納得してるならいいか。
「てーいっ」
ナコが僕に小さな雪玉を投げつける。
ナコは遊びのつもりだったのだろうが、想定外の威力があり三メートルほど吹っ飛んだ。
魔法少女の基本性能強すぎない?
「ごめんなさい! 大丈夫ですか、クーラ?!」
「……ま、まさに魔法少女だね」
溢れるパワーの通り、ここまでの道中ナコが疲れた様子はなかった。
進もうと思えばまだまだ進めるといった元気さである。情けないことに僕の方が疲れて休憩を打診したようなものだ。
まだまだ疲れ知らずのようで、ナコは笑顔で雪玉を転がしながら、
「見てください、雪だるまです」
「わぁ、可愛らしいね」
「名前はクーラくんと名付けました」
「えぇー、なんで?」
「私を助けに来てくれたヒーローの名前です」
雪だるまんフードのことかぁ。
あの時は顔を隠すことしか考えていなかったので、手近にあったものでどうにかしただけなのだが、ヒーローとまで言ってくれるとは嬉しい限りである。
大量の雪を一箇所に集め終わり、真ん中を触手で堀り掘りする。
せっかくなので、ナコが丹精込めて作ってくれた雪だるま(クーラくん)を入り口に飾り付けて――、
「こんなものかな」
――かまくらの完成である。
アイテムボックスに詰めてきた薪を重ね置き、お馴染み火竜玉を篭手で削り落として着火する。
その周囲に串に刺した魚を立て、ゆっくりとできあがりを待った。
じりじりと魚が焼けていく音。
今までに起こったできごとを胸の内で噛み砕くように――僕とナコは無言でそれを見つめ続ける。
薪や食料一式はファーポッシから持ってきたものだ。
村の中に生き残った人がいないことを確認後、旅路に必要だと思うものは全ていただいてきた。
背に腹は代えられぬ状況とはいえど、村の人にとって僕は厄災に等しいだろう。
物資をあさりながら、なんて愚かな行為をしているのかと何度も自省しては――無理やり振り払った。
――ゲームしていた世界がリアルになるとこんなに恐ろしいなんてな。
後藤さんの言葉は恐ろしいくらいに正しかった。
彼はどんな体験をしてきたのだろう。またどこかで会えるのならば、敵としてではなく先輩として話を聞いてみたいと思った。
今この瞬間、ナコはナコでなにを思い巡らせているのか。
それを無理に聞いたりはしない。
二人でいることは確かに心強いけれど、一人で悩み抜く時間も必要だ。
……特にこの世界ではそうだろう。
いつ何時、僕が不慮の事故でいなくなるとも限らない。
ナコにはナコ自身の強さを持ってほしいと思っている。
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