第21庫 変わっていく世界

 くちゃり、ぐちゃり。

 食べて、食べて、食べ続ける、マナーのない咀嚼音が周囲に響き渡った。

 その発信者である僕は――音が鳴り止むまで無言でことを見届ける。


 触術師の保有スキル――捕食。


 この捕食は生きているもの以外、命を宿すもの以外、例外なくなんでも貪欲に飲み込んだ。

 飲み込んだものは僕の血肉となるのだろう、なにかしらの強化効果――『バフ』が入手された。



 ――《 スキルの超強化×1 》《 スピード超アップ×1 》《 即死の無効化×1 》を獲得。



 武器と装備から察するにカルンは武者、ゴルンは盗賊、あとはヒーラーだった。

 ジョブごとによって異なるバフの獲得、使い方は――いや、今は後回しにしておこう。

 僕は証拠を残さぬよう、戦闘後の残骸を処理していく。


 これから先、今回のような生死に直面する機会は多いだろう。

 人を殺した、なんて罪悪感にさいなまれている余裕など微塵もないのだ。


 自身の価値観をこの世界に、オンリー・テイルの世界に合わせてアップデートしていかねばならない。

 今なら、カード師が――後藤さんが言っていた言葉の重みがよくわかる。

 悪と判断したものは問答無用で殺すしかないのだ。


「……村には近付かず、素通りすればよかったかな」


 簡素ではあるが、村人たちのお墓を建てた。

 日は昇り周囲は明るく、村の中をくまなく探し回った。しかし、生き残った人は見当たらず――少しでも逃げ延びた人がいることを祈るしかない惨状だった。


「関係ありませんよ」


 立ち尽くし呟く僕の言葉に――ナコが即答する。


「あの悪い人たちが、いずれこの村を襲った可能性も高いです。遅いか早いか、時間の問題だったと思います」


 ナコなりの慰め方だろう。

 年齢不相応な真面目な言い回しに、逆に気持ちが落ち着いてくる。


 ……僕がしっかりしなくてどうする? 


 あの時こうしておけばよかった、あの時もっと慎重になっていればよかった。弱音を吐いたところで時間は戻らない。

 なにをどう後悔しようと、ファーポッシ村は壊滅したのだ。


「それに、それにっ! もとはといえばこうなったのだって私をっ! クーラが私を助けてくれたからです!!」

「ありがとう」

「……っ」


 もう大丈夫だよ、とナコの頭を優しくなでる。

 ファーポッシ村がなくなるなんて、ゲームではありえない話だった。

 だけど今回、プレイヤーの干渉によってオンリー・テイルの世界は変わることが証明された。

 そう、別世界の思想を持つプレイヤーによって。


「先を急ごうか、ナコ」

「はい」


 世界が変わるということは――変えられるのだ。

 お墓に手を合わせ、僕たちはファーポッシであった村を後にする。




 いつの日かまたミミさんに会いに来るということを胸に誓い、今はただ前に進むしかなかった。

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