第11庫 天使の鍵
カード師がガシガシと頭をかきながら、
「ちっ! タイマンで負けたからには素直に手は引いてやる。俺はその肉団子が目覚める前に消えるが、そいつの奴隷輪どうするつもりだ? 対処しねえと逃げたところで無駄足、苦しめるだけだぞ」
「天使の鍵を使う」
「へぇ、レアなもの持っていやがる」
どんな呪いでも解くレアアイテムだ。
奴隷輪は契約という名目にはなっているが、実際は普通の呪いなので問題なく解除することが可能だろう。
僕はナコさんの奴隷輪に天使の鍵をあてがう。
使い方はこれで正解なのかと不安になったが――カチッとなにかが開くような音、杞憂だったようで奴隷輪は砕けて地面に落ちた。消費アイテムのため、同時に天使の鍵も砕け散る。
ナコさんは首もとを触りながら、
「……ありがとう、ございます」
涙が零れ落ちる。
この世界に一人ぼっち、心細かったし怖かっただろう。僕は安心させるよう、ナコさんの頭をなでる。
「おいおい。感動劇は後回しにしとけよ? お前らも追手が来る前にさっさと逃げるんだな」
「これ、かなりの裏切りだと思うんだけど、君の方は大丈夫なの?」
「はっ! 頃合いを見て抜けるつもりだったからな。それが少し遅いか早いかの差で全く支障はねえ。その肉団子も多少は名の売れた商人、殺して口止めしたいところだがリスクの方が高い。しばらくこの近辺に滞在はできないだろうが、俺も行きたい場所があったからな――丁度いいタイミングだ」
立ち去り際、カード師が振り向き、
「おい」
不意の殺気、僕は触手を展開させカード師の顔に切っ先を突き付ける。
「……やっぱりな。その触手、攻防時の射程距離はブラフか。どれだけ隠し玉潜ませてやがった? 甘ちゃんの割には徹底した戦術、その慎重さと豪胆さ重宝するぜ。スキルをどれだけ創意工夫できるか、それがここで生きる全てに通じてくる」
スキルの創意工夫については僕もずっと考えていた。
安全地帯からコントローラーを握っていた時とは違う。相手がどう動くかという心理状態、自身が冷静でいられるかの精神状態、色々なことを考慮しつつスキルを使用しなくてはならない。
カード師が戦闘の意思はないと両手を上げ、
「俺がさっきの質問に答えられることは一つ、モンスターも手強いが人間はもっと恐ろしい。特にここは俺たちがもといた世界とは根本的なルールが違う、秩序もあってないようなもんだ。ゲームしていた世界がリアルになるとこんなに恐ろしいなんてな」
「やっぱり、君もそうだったのか」
「おいおい、同じ境遇だからって仲間意識持つんじゃねえぞ。俺はお前をまだ信用したわけじゃねえ。あとな、プレイヤーは俺たち以外にもいる。それでいて、この世界を悪い意味で楽しんでいるやつらもな――そいつらに気を付けろ」
この世界に飛ばされた人は意外と多いのか?
しかし、悪い意味で楽しんでいるやつらか。プレイヤーだからといって、安易に近付くのは警戒した方がいいのかもしれない。
「ありがとう」
「ちっ! 今の今まで俺と殺し合いしてたこと忘れるなよ? 礼を言われるようなことはなにもしてねえ、次会ったら今日の借りは倍返しだ――覚悟しとけよ」
「覚えておく。名前を聞いてもいいかな?」
「Goto――後藤だ」
「めちゃくちゃ和風!」
「うるせえ! 俺が借りを返すまで死ぬんじゃねえぞっ!!」
そう言い残し、後藤さんは闇の中に消えて行った。
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