宙族との決戦(3)

★★★


「これがキング・ベヒーモスの中……」

「なんだか、あの工場の廃墟にも似てるね」

「プ~イ」


 歩行戦車の身体を抜け出し、僕の背中にひっついたポチは、彼女の言葉に同意した。僕らはベヒーモスの車体下部にあったメンテナンスハッチから中に潜り込んだが、巨大な機械に囲まれて、途方に暮れそうになっている。


 僕らが入った部屋はエンジンルームだった。


 巨大なエンジンとそれを支える機構が広大な空間を埋め尽くすようにしていて、振動と轟音で部屋を揺らしている。壁のパイプからは油と水蒸気が混ざった煙が噴出し、僕の防護服のバイザーに虹色の光を映している。


「空気が悪いのもそうですが、熱気も凄まじいですね」

「あぁ、このままじゃブッ倒れちまうよ」


 しかし、エンジンルームは、僕らにとって都合がいい場所だった。


 エンジンが発する大きな音が、僕らの動きを完全に隠してくれるからだ。この部屋の床は鉄板でできているが、その上を歩いても走っても、見張りには気づかれないだろう。


「とにかく上を目指しましょう。ハクやクロと合流しないと」

「そうだね」


 僕は機関銃を背負い、光線銃を取り出した。ベヒーモスの中で戦うなら、いつもの機関銃より、ピストルタイプの光線銃の方が取り回し易い。


 機械の影に隠れ、影と影の間を渡り歩く。

 すると、頭上のキャットウォークで何やら人の声が聞こえた。


「おい、お前らも上に行け!」

「なんだ、一体どうした? さっきの爆発音は――」

「それどころじゃない! ゴキブリが暴れてるんだ!」

「ゴキブリィ? 殺虫剤がないのか?」

「ちげーよ、そっちじゃなくて、闘士のゴキブリだ!」

「ゲッ! なんでアイツがいるんだ!」

「んな事しるか!」


(ゴキブリ……戦うゴキブリって、どういうことだ?)

(言っていることの意味はわからないけど、チャンスだね)

(ハクとクロ以外にも、ベヒーモスに潜入した奴がいるんですかね?)

(それは連中が教えてくれるよ)

(そうか、連中を追いかけましょう!)


 通路を走っていった宙族の後を僕らは追いかけた。そして、エンジンルームから通路に出て気がついたが、ベヒーモスの中は空気が清浄だ。


「ベヒーモスの中には毒ガスが入り込んでません。きっと、あの汚染地帯の工場と同じような浄化装置を使ってますね」


「ってことは、パワーアーマーを着込んだ奴も出てくるってわけだ」

「はい、注意してください」


 通路を走っていると、曲がり角で宙族と出くわした。お互い「あっ」と声を上げるが、銃を打つのは、構えたまま走っている僕のほうが早かった。


<バシュンッ!>


上下茶色のつなぎを来ていた宙族は、赤いレーザーを受けた瞬間、ブスブスと煙を上げる小さな灰になった。


「なんちゅう威力……」

「これでアトラクション用のオモチャだって言うんだからねぇ……」


 僕らはそのまま通路を進んだ。途中で何人かの宙族と遭遇したが、僕らの光線銃は彼らに対して無敵だった。一方的に撃ち抜いて、灰にしてしまった。


 やがて僕らは、人間よりも背の高い砲弾が立ってリング状に並べられた場所に到着した。砲弾は回転する歯車やピストンによって、どこかへ送られていく。

 一定の秩序に従って部屋の中のもの全てが動く様子は、時計の中に入り込んだような印象を僕に与えた。


「ここは……弾薬庫か!」

「サトー、これじゃ銃が使えないよ!」


「ケヒヒ! まんまとこのイゴール様の策略にハマったな!」


 僕の頭上から、背中の曲がった小男が話しかけてきた。


 小男はまばらに生えた白髪に、左右の大きさが違う眼球をもち、子供が作った粘土細工のような、直視に耐えないひどく醜い顔をしている。


「ここで銃を使えば、ドッカーン! お前はおしまいだ。武器を捨てろ!」


「クッ……」

「どうするんだいサトー!?」

「残念ですけど、どうしようもありませんね」


 部屋の左右、そして閉めたはずの背後の扉がバンと開き、そこから長剣を構えたパワーアーマー兵が迫ってくる。奴らは体を揺らしながら、砲弾を背にして近寄ってくる。こちらの命を人質にしているってことだろう。


 パワーアーマーは、着用者に猛獣のようなパワーを授ける。それを来たこいつらに、僕が肉弾戦で敵うはずもない。


 ここまでなのか……?


 僕らはじりじりと追い詰められる。壁と僕の背中までの距離が短くなるほどに、イゴールと名乗った醜男の笑い声が大きくなった。


「よし、そのままトドメをさせ―ぃ!」


「――ッ!」


「待てッ!!!」


「……これはこれは……星王様!」


 僕の鼻先まで来ていた、長剣の切っ先がピタリと止まった。


 パワーアーマー兵の動きを止めた声の主が、弾薬庫の影の中から姿を現す。

 金のエングレーブの施された、白いパワーアーマーに身を包んだ大男だ。


「星王……まさかあんたが?」


「そうだ。私がこの星の支配者、宙族のカシラだ」


「その星王様が、僕に何の御用で?」


「私には興味があった。流れの止まった川のように淀み、腐った墜落者ギルドに、文字通り降って湧いた、異常な男の存在がな」


「その男は次々と我々の計画を挫いたが、その実、墜落者ギルドを熱心に助けているわけでもない。多少は妥協点が見いだせると思ったのだ」


「妥協点、何に対してです?」


「君はこの星を脱出するために宇宙船が欲しい、そうだろう?」


「えぇ、まぁ……」


「ならばくれてやろう、そう言っているんだ」


「――ッ!」




※作者コメント※

そいつと交渉するの、

絶対止めたほうが良いと思うなぁ……

だって、サトーなんだぜ……?

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