星王との交渉
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武装解除された僕たちは、そのままベヒーモスの中を上がり、制御や指示を行う、司令室らしき場所まで連れて行かれた。
部屋は、壁、床、天井、全てが金属で取り囲まれていて、無数の計器やバルブハンドル、レバーが無秩序に壁に並んでいた。なんてこった。コンピューターを接続するのに使う、データリンク用のコネクタまであるぞ。
まるで整理されていないこれらの存在は、このベヒーモス自体が、その場で不都合を手当しながら作られた存在ということを物語っている。
なんだが、今の僕と似ているな。
ブラック企業で働いてたら辺境の惑星に落っこちて、そのままなんだかんだ生き延びてたら、こんな所まで来てしまった。
この部屋には一応、申し訳程度に人間が使う家具も置いてある。星王はテーブルの上の水差しを手に取り、並んだ2つのグラスに水を注いだ。
「呑むかね?」
「いえ、結構です。」
星王は手ずから水を注いだグラスを僕に差し出す。
しかし、僕はそれを手の平で制止して断った。
「宇宙船を頂けるのは何よりですが、タダではないでしょう。いったい、何をさせるつもりです」
「その前にもう一度名乗ろうか。私は宙族連合を率いる宙族の頭だ。皆からはそのまま、『カシラ』と呼ばれている」
「僕は一応、ニートピアのリーダーをやらせてもらってる、サトーです。えーと、元はブラック企業で働いてた、ただの平社員です」
「ただの平社員、か。私はてっきりどこかの組織に属している特殊部隊の隊員か、秘密工作員だと思っていたのだが」
「とんでもない。ただのサラリーマンですよ」
「まぁ、それは信じよう――」
「私たちは同じ敵を憎んでいる。ブラック企業、資本家、政治家、そういった人の上に立ち、踏みつけるのをなんとも思っていない連中をな。」
「それはそうかも知れませんが、自分はそうじゃないと?」
「リーダーになってから、初めて見えるものがあるのさ」
「上からの眺め、そういうやつですか。」
「そうだ。コロニーを率いることになって思わなかったか? 自分がやっている事は、ブラック企業の経営者連中と、何が違うのか、と」
「コロニーを率いることになりましたが、僕は少なくとも、救命ポッドの非常用品をオモチャと入れ替えたりはしませんでしたよ」
「えっ何それ。マジ?」
「マジです。」
「……オホン。なら、君が連中に対して感じている憎しみも強いだろう」
「それはそうなんですけど、貴方の行いや、足元にあるものを見て、僕はどうやってカシラを信用したら良いんですかね」
「怪物に挑戦するには、自分も怪物にならないといけないのさ」
「エサにされる方は溜まったもんじゃないですけど……怪物を倒す為の、具体的な方法について話し合いましょう」
「単刀直入。いいね。」
「サトーくん。我々がこの惑星ナーロウで何をしていたか、君の中で推測が立っているんじゃないか?」
「まぁ、大体は。」
僕は部屋の壁により掛かり、カシラに向かってここまでに判明したこと、そこから推測される事を語ることにした。
「僕の推測というか、もう確信なんですが――この惑星ナーロウは、テーマパークになる前から、あることに使われ続けていた。」
「この惑星ナーロウは、非合法な技術の実験場だったんでしょう。ここは、銀河のあらゆる法律から逃れられる場所だった」
「多くの有名企業が、自分たちの会社の技術的優位、商品開発能力を維持するためここで研究を行った。研究は単純に危険だったり、危険でなくとも、内容を耳にした人間が不快に思うようなものだった。」
「しかし、いくら隠しても露見の可能性はある。この星が現実に存在する以上、この星の近くで宇宙船の事故が発生すれば、墜落者がこの星に降り立ってしまう」
「だから、この場所を見守る番犬が必要だった。それがあなた達、宙族だ。大企業は宇宙の遊牧民であるあなた達を金で雇って、墜落者を見張らせることにした」
「だが、ここで一つ疑問が残る。宙族はなぜ墜落者を全て始末しないのか?」
「答えは唯一つ。猟犬が猟師に食われないためには、獲物が
「すばらしい。閉じ込められているのは、我々宙族も同じなのさ」
「気が合うようで何よりです。きっと貴方には、怪物を倒す手段があるはずだ」
「そうだ。私は君にこのメモリーモジュールを授けよう。これにはこの星で行われていた、あらゆる不正の証拠が保存されている。私以外のな」
カシラが僕に向けて放った「それ」を僕は受け取った。
僕の手に握られていたのは、タブレットガムのような本当にちいさな記憶メディアだ。うっかりすると、すぐ無くしそう。
「……なるほど頂きましょう」
「合意が取れて何よりだ。では、宇宙船も用意させよう。……我々のような者でも、日の当たる場所で生きたいのだよ」
「お言葉ですが――」
「このサバンナよりも日当たりのいい場所は、天国しかありませんよ」
「何っ――!?」
そう、僕はただ長話をするためだけに、壁に寄りかかったわけじゃない。
この部屋の壁には、無数の計器やレバーに加えて、「コンピューターを接続するためのコネクタ」があった。そして、僕の背中にはポチがいる。
彼は僕が喉に飲み込んだMRの支援を受けつつ、「キング・ベヒーモス」の中枢に入り込んで、車内放送を使い、この部屋を「ある存在」に知らせたのだ。
<ズゴォォン!!!>
部屋の扉がぶち破られ、白と黒の流星が部屋に乱入してきた。
「おまたせですわ!!」
「よー! おひさだなオッチャン!!」
「お、お前たちは……なぜココにっ!?」
「獲物を太らせすぎましたね。もはや猟犬のアゴには収まらない」
「……貴様ァ!!」
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※作者コメント※
(ノ∀`)アチャー
だからいったのに……
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