宙族との決戦(2)
<ズゴォォォォォォンッ!!!!>
「撃ったぁ!!」
「キューイ?!」
銀河最強の戦車、『キング・ベヒーモス』はあまりにも大きすぎる。それゆえに、その主砲は僕たちの上、そっぽを向いたままだった。
しかし、奴はそれにも構わず巨砲を虚空に向かって放った。
光弾が空を切って僕らの上を飛んでいく、それを目で追っていた僕は、そのまま後を振り返るかたちになった。
すると視線の先、僕らの後方にあった背の高い数十階建てのビルに光弾が命中し、ビルは内部に向かって倒れていくみたいにグシャッと粉砕された。
「あっ」と思った次の瞬間。ビルのあったところに太陽のように輝く巨大な火球が生まれ、目を焼かんばかりの熱線と全てをなぎ倒す爆風が襲ってきた。ビルから飛び散るガラスや鉄筋が空中でキラキラと光り、爆音が耳をつんざく。
<ズォォォォォッ!!!!!!>
ポチはキネティックシールドを展開して衝撃と爆風をそらしたが、それでも激しく動く空気はシールドを回り込んで、僕らの内臓を揺さぶってきた。
「「うわわッ!!」」
「うぉーー! なんだーー!?」
「なんですのー!?」
なんて凄まじい威力の砲撃だ。地面から巻き上げられた土砂や土が夕日を遮って、あたりをぼんやりと暗くしている。
トレーラーの中にいるハクとクロは、軽く興奮状態になっていた。
爆発の跡地は、砲弾が命中したビルはもちろん、周囲の建物もまとめて薙ぎ払われていた。
「建物が消し飛んじまったよ」
「とんでもない威力ですね……」
「すげーなー!!」
「とんでもない力ですわね!」
「あれ、つえーなー!」
あんなのをまともに食らったらひとたまりもない。
なんとかしないと……でもあんな巨大な兵器をどうやって?
考えろサトー。
今、ここで何が起きてる?
何がアイツにとって何が都合が良くて、何が悪い?
そして、こっちにとって、それはどう言う意味を持つ?
僕はキング・ベヒーモス、そして奴の周囲を見つめる。
ここにはやつしか居ない。
そして、奴は狙いが甘いのに、いきなり主砲をぶっ放してきた。
戦いを焦っている?
一体なぜ? ――っ、そうか!!
「サトー、早く遠くに逃げたほうが良いよ!!」
「いえ、待ってください逆です!! 逃げちゃダメなんです!」
「な、何いってんだい!?」
「あいつは、
巨獣の車体を観察して、僕はハッとしたのだ。
主砲の周りの銃塔はよく見ると、いくつかの部分が鉄板で「埋められている」。
よく見ると、主砲塔の近くにある副砲塔も、装備されている大砲がおかしい。砲塔に差し込まれているのはただの棒。つまりダミーだ。
「ギリーさん、副砲塔の装備をよくみてください。ベヒーモスが装備している兵装は、主砲を除き、そのほとんどが偽物なんです」
「なっ、どういうことだい?」
「キング・ベヒーモスはこの惑星に廃棄された時、武装解除されていたはずです。だから全ての兵器の修理が間に合わなかったんでしょう」
「なるほどね、だから偽物を……」
「ブーブーボゥイの持っていた大砲をパーツ取りのために求めていたのは、これが理由だったんだ……資材が不足しているのは、宙族も同じだったんだ」
「そういえばそんな事があったね。散々追い払ってやったけど」
あの不毛に見えた戦いには、ちゃんと今日につながっていた。
意味があったんだな。
「ベヒーモスの主砲は小回りがきかない。だから副砲塔で死角を補っているんですが、きっと主砲を動かすために副砲のパーツを使ってしまったんですね」
「共食い整備ってやつだね。ナーロウじゃ珍しくないけど」
「副砲塔の目的は、主砲の死角をカバーすること。近くに近寄ってきた相手に使うもの。だけど今、それは存在しない」
「ってことは――」
「はい、今いるポジションが、やつにとっては最悪、僕らにとっては最良のポジションっていうことです!」
「サトーが逃げちゃだめって言う意味がわかったよ」
「はい、奴を仕留めるなら今です!」
「プーイ!」
<ブォォォンッ!!!>
ベヒーモスの鋼鉄の心臓が吼える。奴は背中のエンジングリルから火山の噴火みたいな黒煙を上げたかと思うと、ずりずりと後に下がり始めた。
「距離を取るつもりか……そうはさせるか、ポチ、プラズマ砲だ!」
「プーイ!」
緑色のビームが主砲の付け根に向かって飛んでいく。しかし――
<バチンッ!! バチバチッ!!>
「弾かれた、いや……消えた!?」
「キュイ?!」
プラズマ砲のビームは、溶解させるどころか、表面で弾けて霧消してしまった。
あれはプラズマ兵器に対応したアクティブ防御に見られる現象だ。
プラズマ兵器は空気中にエネルギーが逃げ出さないよう、高熱のプラズマを特殊な磁場で包み込んで射出している。つまり、強い磁気による撹乱に弱い。
プラズマの撹乱装置は、キング・ベヒーモスの本来の装備じゃないんだが、どうやら宙族が後付で追加したみたいだな。
僕らがプラズマ砲を手に入れるのを、想定していたのか?
あり得るな。宙族はこのナーロウに詳しい。この星に何があるかを把握しているはず、万が一の対策として取り付けたか? 変なところに気が回るなぁ……。
くそっ、せっかく追い詰めたと思ったのに……。
「これは予想してませんでした。プラズマ砲が通用しませんね……」
「どうするつもりだい、サトー!」
「こうなったら、中に乗り込んで主砲の制御装置を破壊します!」
「えぇ!?」
「いけ、ポチ!」
「プイ!」
ポチが6つの足を横に倒し、重心を低くして疾走する。そしてそのまま鉄の城砦としかたとえようのない、キング・ベヒーモスの側面に取りついた。
「ハク、クロ! 中に乗り込んで、連中を叩きのめすんだ!」
「よしきた、やるぜー!」
「承知ですわ!」
ハクとクロの二人は、ひらりっとトレーラーから飛び上がると、手の指の力だけでベヒ―モスの外板を登っていく。すごいな。
「僕とギリーさんは別の入口を探しましょう」
「わかったよ」
上に登っていくハクとクロと別れた僕らは、そのまま車体底面に潜り込み、メンテナンスハッチから乗り込むことにした。これだけ巨大な兵器なら、底面に整備や脱出に使うハッチが必ずあるはずだ。
「行こう!!」
「キューイ!」
※作者コメント※
巨大兵器への乗り込みは、男のロマン
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